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BY 編集部
1.はじめに
台湾の専利法において、意匠の「新規性喪失の例外(グレースピリオド)」と「先使用権(日本の『先使用による通常実施権』に相当)」は、いずれも権利者と第三者の利益バランスを調整するための重要な制度です。前者は、出願人の本意または非本意により公開された意匠を一定期間保護するものであり、後者は、出願前から善意で実施している者の継続的実施を認めるものです。本件のポイントは、出願人の公開行為に適法にグレースピリオドが適用されるかという点に加え、グレースピリオド期間中に独自に同一・類似意匠の実施を開始した第三者に対し、先使用権を認めるべきか(及び新規性を否定する先行技術となるか)という点にあります。
2.事件の概要と主な争点
• 対象意匠(係争意匠):
原告は、台湾の第D234007號「係合式ブラケット」の意匠権者です。
• 事実関係と双方の主張:
原告は、被告が製造・販売する「Toyota Wish 10-16年右側専用携帯電話ブラケット(以下、係争製品)」が係争意匠の権利範囲に属すると主張しました。原告は、出願前にオンラインプラットフォームで公開された証拠(甲証8:商品評価・レビュー)について、公開時期が出願日前6ヶ月のグレースピリオド内であるため、新規性喪失の例外が適用されると主張しました。
これに対し被告は、先行技術の証拠(乙証2、3、5、6の組み合わせ:係争製品の販売資料)を提示し、これらによって係争意匠は新規性を有しないと主張するとともに、自身に先使用権があると抗弁しました。
• 主な争点:
本件の争点は、出願前にインターネット等の商品評価(甲証8)で公開された事実に対してグレースピリオドが適法に適用されるか否か、そして被告が提示した証拠(乙証2等)によって、意匠権者による公開後に実施を開始した第三者に先使用権が認められるかという点にあります。
3.裁判所の判断
裁判所は、係争製品が係争意匠の権利範囲に属すると認定したものの、最終的に先使用権が成立するため意匠権の効力は及ばないと判断しました。
(1)係争製品は係争意匠の権利範囲に属する
1.はじめに
台湾の専利法において、意匠の「新規性喪失の例外(グレースピリオド)」と「先使用権(日本の『先使用による通常実施権』に相当)」は、いずれも権利者と第三者の利益バランスを調整するための重要な制度です。前者は、出願人の本意または非本意により公開された意匠を一定期間保護するものであり、後者は、出願前から善意で実施している者の継続的実施を認めるものです。本件のポイントは、出願人の公開行為に適法にグレースピリオドが適用されるかという点に加え、グレースピリオド期間中に独自に同一・類似意匠の実施を開始した第三者に対し、先使用権を認めるべきか(及び新規性を否定する先行技術となるか)という点にあります。
2.事件の概要と主な争点
• 対象意匠(係争意匠):
原告は、台湾の第D234007號「係合式ブラケット」の意匠権者です。
• 事実関係と双方の主張:
原告は、被告が製造・販売する「Toyota Wish 10-16年右側専用携帯電話ブラケット(以下、係争製品)」が係争意匠の権利範囲に属すると主張しました。原告は、出願前にオンラインプラットフォームで公開された証拠(甲証8:商品評価・レビュー)について、公開時期が出願日前6ヶ月のグレースピリオド内であるため、新規性喪失の例外が適用されると主張しました。
これに対し被告は、先行技術の証拠(乙証2、3、5、6の組み合わせ:係争製品の販売資料)を提示し、これらによって係争意匠は新規性を有しないと主張するとともに、自身に先使用権があると抗弁しました。
• 主な争点:
本件の争点は、出願前にインターネット等の商品評価(甲証8)で公開された事実に対してグレースピリオドが適法に適用されるか否か、そして被告が提示した証拠(乙証2等)によって、意匠権者による公開後に実施を開始した第三者に先使用権が認められるかという点にあります。
3.裁判所の判断
裁判所は、係争製品が係争意匠の権利範囲に属すると認定したものの、最終的に先使用権が成立するため意匠権の効力は及ばないと判断しました。
(1)係争製品は係争意匠の権利範囲に属する

【係争意匠の斜視図】 【係争製品の写真】
係争製品と係争意匠はいずれもブラケットであり、両者の用途は同一であるため、物品は同一であると判断される。
デザイン面において、係争意匠と係争製品はいずれも「本体が傾斜を有する薄いシェル状であり、その右側上方の縁部から略台形の突片が延設され、本体の底端が一定の角度で折り曲げられて略扇形の板体デザインを呈している」という構成を有し、同様に「傾斜を有する薄いシェル」、「角部の曲線的な折り返し」、「台形の突片」、「本体底端の扇形形状」という特徴を備えている。係争製品と係争意匠の外観は完全に同一であるため、両者は近似・同一のデザインであると認定され、係争製品は係争意匠の権利範囲に属すると結論付けられた。
(2)新規性喪失の例外と第三者の実施行為の認定

新規性喪失の例外の適用は、あくまで出願人の本意または非本意による公開の影響を救済するものであり、第三者による独立した公開を排除する「排他的効力」を有しない。たとえグレースピリオド期間内であっても、第三者が同一・類似の意匠を先に販売した事実は阻却されず、依然として新規性や創作性を否定する先行技術となる。
本件において、係争製品の実施(販売)による公開の期日は係争意匠の出願日より前であり、係争意匠が新規性を有しないことを証明する適格な証拠となり得る。本件の乙証2、3、5、6の組み合わせは、係争意匠と近似する外観をすでに開示しており、かつ係争意匠の出願日より前に同一または近似のデザインが存在し、公に実施されていた。したがって、乙証2、3、5、6の組み合わせは、係争意匠の新規性を否定するに十分な証拠であると認められる。
(3)先使用権の抗弁について
係争意匠の新規性喪失の例外期間は6ヶ月である。係争意匠は2024年3月1日に出願されているところ、乙証2、3、5、6の組み合わせによれば、被告は原告による係争意匠の出願前である2024年2月16日に、既に係争製品を公開販売していたことが認められる。そして、係争製品は、外観が係争意匠と近似していることから、原告の係争意匠の出願前に、すでに国内で実施されていたことが十分に証明される。したがって、係争意匠の効力は係争製品には及ばない。
4. 結論と実務上のアドバイス
本件は、台湾の意匠制度における「新規性喪失の例外」と「意匠権の効力が及ばない範囲(先使用権)」の法的な衝突を示す事例です。この判決が示す通り、グレースピリオドは出願人に猶予を与える例外規定に過ぎず、第三者の独立した公開に対抗する排他的効力は有しません。同期間内に第三者が同一の意匠を実施・公開した場合、権利の有効性と侵害判定において法的争いが生じます。
専利法第142条が準用する第59条第1項第3号によれば、出願前に国内で実施(製造、販売、輸入等)をしている者は先使用権を主張できます。本件において、被告の証拠(乙証2、3、5、6)は売場での製品販売であり、実施行為として先使用権を主張できるとされました。裁判所は、係争製品と係争意匠の外観が近似していると認定した一方で、被告が出願前に既に国内で販売を開始していた事実(先使用)を認めたため、結果として係争意匠の効力は係争製品には及ばないと判断しました。
ただし、同条第1項第3号ただし書及び第142条第4項の規定により、意匠出願人から知得して6ヶ月未満であり、かつ出願人が権利保留の声明を行った場合、第三者は先使用権を主張できません。したがって、出願人は先使用権の抗弁を阻止するために、自発的な声明戦略を採るとともに、訴訟において「相手方が独立開発ではなく知得したこと」を証明できるよう、第三者との接触記録を適切に保存することが求められます。逆に、第三者の公開が独立したものであり、係争意匠の新規性・創作性を否定できる場合、原告は権利を主張できません。なお、本判決では、第三者の公開事実(被告の実施)は原告から知得したものではないと認定されたため、先使用権の喪失には該当しないとされました。
総じて言えば、意匠権を戦略的に活用するためには、グレースピリオドに過度に依存せず、可能な限り早期に出願を行うとともに、やむを得ず公開した場合にはその事実や接触記録を厳密に管理する緻密な実務対応が求められます。
※本記事に関してご不明な点がございましたら、いつでもお気軽にipdept@taie.com.twまでお問い合わせ下さい。