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BY 編集部
一、はじめに
「特実併願」とは、同一の出願人が同一の創作について、同日に発明専利出願および実用新案出願をそれぞれ行う制度です。この制度の主な目的は、実用新案専利権の取得によって早期に権利保護を確保したうえで、最終的には実体審査を経た、より安定性の高い発明専利権を取得することにあります。この特有の制度は、台湾および中国の双方において採用されてきました。
しかし、2025年11月、中国国家知識産権局(CNIPA)は「専利審査指南の改正に関する決定」(局令第84号)を公布し、同改正は2026年1月1日より施行されました。本改正には多岐にわたる内容が含まれていますが、その中でも「特実併願」に関する規定の厳格化は、実務上重要な変更点です。本稿では、中国における「特実併願」に関する規定の改正内容と、それが実務に及ぼす影響について詳細に解説します。
二、中国における「特実併願」の規定
中国専利法第9条では、「同一の発明創造については、1つの専利権のみを付与する」という「重複付与排除の原則」が明記されています。ただし、同一出願人が同日に実用新案と発明専利の双方を出願した場合、先に取得した実用新案専利権が存続しており、かつ出願人が当該実用新案専利権を「放棄する」旨の声明を行った場合に限り、発明専利権の付与が認められます。
また、専利法実施細則第47条によれば、この制度を利用する際の手続きは以下の通り進行します。まず、出願時に双方の出願において「他方の専利を出願している旨」を説明しなければなりません。その後、実用新案専利権が付与・公告される際、同時に発明専利出願も行われている旨が公告されます。そして、発明専利出願の実体審査において拒絶理由が発見されなかった場合、審査官は出願人に対し、所定の期間内に実用新案専利権を放棄する声明を提出するよう通知します。出願人がこれに同意して放棄の声明を提出すれば発明専利権が付与され、実用新案専利権は発明専利の登録公告日から終了(消滅)します。逆に、放棄に同意しない場合は、当該発明専利出願は拒絶されます。
これら法律および実施細則の枠組みから見れば、最終的に存続できる専利権は「1つのみ」であることが本来の原則であることが分かります。
三、専利審査指南の規定とその重大な変更点
前述の通り、法律の規定によれば、「最終的に1つの権利のみが存続する」とされています。しかし、改正前の「専利審査指南」では、出願人が2つの専利権を同時に保有し得る「例外的な運用」が認められていました。
【改正前の実務運用:権利の併存が可能】改正前の審査指南では、出願人が発明専利出願の特許請求の範囲を補正し、「発明専利のいずれの請求項も、実用新案専利権のいずれの請求項と同一ではない」状態にすることが許容されていました。このように保護範囲に差異を設けることで、両者は法的に「同一の発明創造」には該当しなくなります。その結果、重複付与の制限を回避でき、出願人は実用新案専利権を放棄することなく、発明専利権と実用新案専利権の双方を同時に維持することが可能でした(なお、この運用は台湾の現行実務と同様です)。
【改正後の実務運用:実用新案の放棄が絶対条件に】しかし、今回の専利審査指南の改正により、発明専利出願の保護範囲を補正して2つの専利権を維持できる旨の規定は完全に削除されました。改正後は、発明専利出願の審査において拒絶理由が発見されなかった場合、発明専利と実用新案の特許請求の範囲が同一であるか否かにかかわらず、発明専利権を取得するためには必ず実用新案専利権を放棄する旨を声明しなければならないと規定されました。つまり、どのような状況であれ、最終的に中国において存続する専利権は「必ず1つのみ」となります。これが今回の制度改正における最大のポイントです。
中国国家知識産権局は、この規定改正の背景として、中国における知的財産政策が「数量の追求」から「品質の追求」へと転換していることを挙げています。統計上も特実併願の出願件数は年々減少傾向にあり、発明専利の審査期間も大幅に短縮されています。さらに各種の早期審査(優先審査)制度も充実してきたため、出願人があえて特実併願を利用する必要性が低下していると説明されています。
四、実務上の影響と対応戦略に関する考察
では、この審査指南の改正は、実務において具体的にどのような影響を及ぼすのでしょうか。まず前提として、発明専利出願自体が拒絶査定を受けた場合(例えば、複数回の意見陳述や補正を行っても創造性等の拒絶理由を解消できない場合)には、実用新案を放棄するか否かの段階にすら至らないため、本改正の影響は受けません。
したがって、本改正の影響が及ぶのは「発明専利出願について最終的に拒絶理由が存在しない(登録可能となった)場合」に限定されます。この状況は、さらに以下の2つのケースに分けられます。
ケース1:発明専利の請求項が、実用新案の請求項と「同一」である場合
特実併願を行う際、通常は双方の独立請求項を完全に同一にして出願します。そのため、審査官から拒絶理由が通知されずそのまま登録される場合や、従属請求項の特徴を独立請求項に組み込む補正を行った結果、実用新案側の従属請求項と完全に一致する保護範囲となった場合がこれに該当します。このケースにおいては、改正前・改正後を問わず、両者は「同一の発明創造」に該当するため、いずれか一方の権利しか残すことができません。したがって、このケースでは改正による実務上の影響はありません。
ケース2:発明専利の請求項が、実用新案の請求項と「同一ではない」場合
本改正の直接的な影響を受けるのは、まさにこのケースです。通常、出願人が能動的に両者の保護範囲を変えることは稀です。多くの場合、審査過程で先行技術が引用され、「創造性(進歩性)」や「明確性」の欠如といった拒絶理由を解消するために、やむを得ず発明専利側の独立請求項に実用新案には記載されていない技術的特徴を追加する(限定する)ことになります。その結果、両者の保護範囲に差異が生じます。
改正前であれば、この差異を利用して「限定された安定した発明専利権」と「保護範囲が広い実用新案専利権」の双方を維持できました。しかし改正後は、保護範囲が異なっていても実用新案権を手放さなければなりません。出願人にとっては「広い権利を強制的に失う」ことになります。
【この改正はどのような影響をもたらすか?】法的な有効性の観点から深く考察すると、影響の程度は必ずしも壊滅的ではありません。なぜなら、発明専利の独立請求項を限定せざるを得なかった原因(例えば先行技術の存在)は、すでに登録公告されている実用新案専利権の独立請求項にも同様の瑕疵(創造性欠如など)をもたらす可能性が極めて高いからです。
確かに、実用新案に求められる創造性の基準(実質的特徴及び進歩)は、発明(突出した実質的特徴及び顕著な進歩)よりもやや低いとされています。しかし実務上、発明の創造性を否定し得る先行技術は、実用新案の有効性を覆す可能性が高いです。つまり、改正前に広い実用新案専利権を維持できたとしても、その権利を行使して侵害訴訟を提起すれば、高い確率で無効審判を請求され、結果的に発明専利と同程度まで保護範囲を減縮せざるを得なくなるか、最悪の場合は権利が無効にされるリスクを抱えていました。したがって、実用新案権が発明専利権より広い保護範囲を持っていても、実際の運用上、逆に権利行使しにくい恐れがあります。
【ビジネス戦略・ライセンス交渉における影響】一方で、権利活用の柔軟性という観点からは影響が残ります。企業の知財戦略においては、権利の有効性だけでなく、「多様な武器を持っていること」自体が交渉力を高めることがあります。瑕疵を抱えている可能性があっても、「より広い保護範囲を持つ実用新案」と「審査を経た強固な発明専利」の二段構えで網を張ることは、ライセンス交渉や競合他社への牽制において大きな柔軟性をもたらしていました。改正後はこの「権利の併存による戦術」が使えなくなるため、訴訟戦略や商業戦略において出願人の選択肢が狭まることは避けられません。
五、結語
特実併願は、台湾および中国において特許出願を行う企業が、長期にわたり多用してきた重要な出願戦略です。2026年1月1日以降、発明専利出願の補正により実用新案と保護範囲が異なる状態となった場合、台湾と中国ではその結末が決定的に分かれることになります。台湾では引き続き両方の権利を同時に維持することが可能ですが、中国ではいかなる場合でも実用新案専利権を放棄しなければ発明専利を取得できません。
今回の専利審査指南の改正は、これまで台湾と中国で類似していた実務運用を大きく切り離すものです。中国において本制度を頻繁に利用し、複数の保護範囲を組み合わせた知財戦略を展開してきた出願人は、両国の法規の相違を正確に理解したうえで、今後の出願戦略や権利化後の活用方針を早急に見直す必要があると考えます。
※本記事に関してご不明な点がございましたら、いつでもお気軽にipdept@taie.com.twまでお問い合わせ下さい。
一、はじめに
「特実併願」とは、同一の出願人が同一の創作について、同日に発明専利出願および実用新案出願をそれぞれ行う制度です。この制度の主な目的は、実用新案専利権の取得によって早期に権利保護を確保したうえで、最終的には実体審査を経た、より安定性の高い発明専利権を取得することにあります。この特有の制度は、台湾および中国の双方において採用されてきました。
しかし、2025年11月、中国国家知識産権局(CNIPA)は「専利審査指南の改正に関する決定」(局令第84号)を公布し、同改正は2026年1月1日より施行されました。本改正には多岐にわたる内容が含まれていますが、その中でも「特実併願」に関する規定の厳格化は、実務上重要な変更点です。本稿では、中国における「特実併願」に関する規定の改正内容と、それが実務に及ぼす影響について詳細に解説します。
二、中国における「特実併願」の規定
中国専利法第9条では、「同一の発明創造については、1つの専利権のみを付与する」という「重複付与排除の原則」が明記されています。ただし、同一出願人が同日に実用新案と発明専利の双方を出願した場合、先に取得した実用新案専利権が存続しており、かつ出願人が当該実用新案専利権を「放棄する」旨の声明を行った場合に限り、発明専利権の付与が認められます。
また、専利法実施細則第47条によれば、この制度を利用する際の手続きは以下の通り進行します。まず、出願時に双方の出願において「他方の専利を出願している旨」を説明しなければなりません。その後、実用新案専利権が付与・公告される際、同時に発明専利出願も行われている旨が公告されます。そして、発明専利出願の実体審査において拒絶理由が発見されなかった場合、審査官は出願人に対し、所定の期間内に実用新案専利権を放棄する声明を提出するよう通知します。出願人がこれに同意して放棄の声明を提出すれば発明専利権が付与され、実用新案専利権は発明専利の登録公告日から終了(消滅)します。逆に、放棄に同意しない場合は、当該発明専利出願は拒絶されます。
これら法律および実施細則の枠組みから見れば、最終的に存続できる専利権は「1つのみ」であることが本来の原則であることが分かります。
三、専利審査指南の規定とその重大な変更点
前述の通り、法律の規定によれば、「最終的に1つの権利のみが存続する」とされています。しかし、改正前の「専利審査指南」では、出願人が2つの専利権を同時に保有し得る「例外的な運用」が認められていました。
【改正前の実務運用:権利の併存が可能】改正前の審査指南では、出願人が発明専利出願の特許請求の範囲を補正し、「発明専利のいずれの請求項も、実用新案専利権のいずれの請求項と同一ではない」状態にすることが許容されていました。このように保護範囲に差異を設けることで、両者は法的に「同一の発明創造」には該当しなくなります。その結果、重複付与の制限を回避でき、出願人は実用新案専利権を放棄することなく、発明専利権と実用新案専利権の双方を同時に維持することが可能でした(なお、この運用は台湾の現行実務と同様です)。
【改正後の実務運用:実用新案の放棄が絶対条件に】しかし、今回の専利審査指南の改正により、発明専利出願の保護範囲を補正して2つの専利権を維持できる旨の規定は完全に削除されました。改正後は、発明専利出願の審査において拒絶理由が発見されなかった場合、発明専利と実用新案の特許請求の範囲が同一であるか否かにかかわらず、発明専利権を取得するためには必ず実用新案専利権を放棄する旨を声明しなければならないと規定されました。つまり、どのような状況であれ、最終的に中国において存続する専利権は「必ず1つのみ」となります。これが今回の制度改正における最大のポイントです。
中国国家知識産権局は、この規定改正の背景として、中国における知的財産政策が「数量の追求」から「品質の追求」へと転換していることを挙げています。統計上も特実併願の出願件数は年々減少傾向にあり、発明専利の審査期間も大幅に短縮されています。さらに各種の早期審査(優先審査)制度も充実してきたため、出願人があえて特実併願を利用する必要性が低下していると説明されています。
四、実務上の影響と対応戦略に関する考察
では、この審査指南の改正は、実務において具体的にどのような影響を及ぼすのでしょうか。まず前提として、発明専利出願自体が拒絶査定を受けた場合(例えば、複数回の意見陳述や補正を行っても創造性等の拒絶理由を解消できない場合)には、実用新案を放棄するか否かの段階にすら至らないため、本改正の影響は受けません。
したがって、本改正の影響が及ぶのは「発明専利出願について最終的に拒絶理由が存在しない(登録可能となった)場合」に限定されます。この状況は、さらに以下の2つのケースに分けられます。
ケース1:発明専利の請求項が、実用新案の請求項と「同一」である場合
特実併願を行う際、通常は双方の独立請求項を完全に同一にして出願します。そのため、審査官から拒絶理由が通知されずそのまま登録される場合や、従属請求項の特徴を独立請求項に組み込む補正を行った結果、実用新案側の従属請求項と完全に一致する保護範囲となった場合がこれに該当します。このケースにおいては、改正前・改正後を問わず、両者は「同一の発明創造」に該当するため、いずれか一方の権利しか残すことができません。したがって、このケースでは改正による実務上の影響はありません。
ケース2:発明専利の請求項が、実用新案の請求項と「同一ではない」場合
本改正の直接的な影響を受けるのは、まさにこのケースです。通常、出願人が能動的に両者の保護範囲を変えることは稀です。多くの場合、審査過程で先行技術が引用され、「創造性(進歩性)」や「明確性」の欠如といった拒絶理由を解消するために、やむを得ず発明専利側の独立請求項に実用新案には記載されていない技術的特徴を追加する(限定する)ことになります。その結果、両者の保護範囲に差異が生じます。
改正前であれば、この差異を利用して「限定された安定した発明専利権」と「保護範囲が広い実用新案専利権」の双方を維持できました。しかし改正後は、保護範囲が異なっていても実用新案権を手放さなければなりません。出願人にとっては「広い権利を強制的に失う」ことになります。
【この改正はどのような影響をもたらすか?】法的な有効性の観点から深く考察すると、影響の程度は必ずしも壊滅的ではありません。なぜなら、発明専利の独立請求項を限定せざるを得なかった原因(例えば先行技術の存在)は、すでに登録公告されている実用新案専利権の独立請求項にも同様の瑕疵(創造性欠如など)をもたらす可能性が極めて高いからです。
確かに、実用新案に求められる創造性の基準(実質的特徴及び進歩)は、発明(突出した実質的特徴及び顕著な進歩)よりもやや低いとされています。しかし実務上、発明の創造性を否定し得る先行技術は、実用新案の有効性を覆す可能性が高いです。つまり、改正前に広い実用新案専利権を維持できたとしても、その権利を行使して侵害訴訟を提起すれば、高い確率で無効審判を請求され、結果的に発明専利と同程度まで保護範囲を減縮せざるを得なくなるか、最悪の場合は権利が無効にされるリスクを抱えていました。したがって、実用新案権が発明専利権より広い保護範囲を持っていても、実際の運用上、逆に権利行使しにくい恐れがあります。
【ビジネス戦略・ライセンス交渉における影響】一方で、権利活用の柔軟性という観点からは影響が残ります。企業の知財戦略においては、権利の有効性だけでなく、「多様な武器を持っていること」自体が交渉力を高めることがあります。瑕疵を抱えている可能性があっても、「より広い保護範囲を持つ実用新案」と「審査を経た強固な発明専利」の二段構えで網を張ることは、ライセンス交渉や競合他社への牽制において大きな柔軟性をもたらしていました。改正後はこの「権利の併存による戦術」が使えなくなるため、訴訟戦略や商業戦略において出願人の選択肢が狭まることは避けられません。
五、結語
特実併願は、台湾および中国において特許出願を行う企業が、長期にわたり多用してきた重要な出願戦略です。2026年1月1日以降、発明専利出願の補正により実用新案と保護範囲が異なる状態となった場合、台湾と中国ではその結末が決定的に分かれることになります。台湾では引き続き両方の権利を同時に維持することが可能ですが、中国ではいかなる場合でも実用新案専利権を放棄しなければ発明専利を取得できません。
今回の専利審査指南の改正は、これまで台湾と中国で類似していた実務運用を大きく切り離すものです。中国において本制度を頻繁に利用し、複数の保護範囲を組み合わせた知財戦略を展開してきた出願人は、両国の法規の相違を正確に理解したうえで、今後の出願戦略や権利化後の活用方針を早急に見直す必要があると考えます。
※本記事に関してご不明な点がございましたら、いつでもお気軽にipdept@taie.com.twまでお問い合わせ下さい。