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【台湾知財ニュース】台湾特許庁、AI関連発明の審査事例集を公表 ~適格性、実施可能要件、進歩性の判断基準を事例で明確化~

【台湾知財ニュース】台湾特許庁、AI関連発明の審査事例集を公表 ~適格性、実施可能要件、進歩性の判断基準を事例で明確化~

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一、前書き
2025年9月、台湾智慧財産局(TIPO)は、近年急増するAI(人工知能)関連特許出願の審査品質と予見性を高めるため、「AI関連発明事例集」を公表しました。
本事例集では、AI関連発明の審査において特に拒絶理由となりやすい「発明の定義(適格性)」、「実施可能要件」、および「進歩性」の3つの要件について、計6つの事例を用いて詳細な判断基準を解説しています。
本稿では、台湾へのAI出願を検討されている日本企業の皆様に向けて、同事例集から読み取れる実務上の重要ポイントを要約してご紹介します。

二、事例の概要
1.発明の定義(適格性)
台湾の専利法において、発明は「自然法則を利用した技術的思想の創作」とする必要があります。AI関連発明においては、単なる抽象的な計算式や人為的な取り決めではなく、ソフトウェアがハードウェア資源を利用して具体的に情報処理を行っているかどうかが問われます。

≪事例1-1:マットレス適合度スコアの算出方法≫


【否定事例】
単に使用者の「寝姿勢」や「体型情報」を取得し、計算して表示するだけの方法クレームは、各工程の実行主体が不明確であり、人為的な取り決めや単なる数学的モデル(演算モデル)と解釈されるため、発明の適格性が認められませんでした。

【肯定事例】
請求項において、「情報取得モジュール(センサー等を含む)」、「AIマッチングモジュール(ニューラルネットワークを内蔵)」、「表示モジュール」といった具体的構成が特定され、それらが相互に通信接続して協働されている内容が記載されています。単なる抽象的な計算式ではなく、取得した身体データに基づき、AIがハードウェア資源を用いて適合度を算出・表示するという「具体的な情報処理」が実現されているため、発明の適格性が認められました。

≪事例1-2:プログラムのメモリアクセスアドレスの予測方法≫
【否定事例】
請求項に「取得する」、「選択する」、「結合する」といった動作のみが記載され、主体が不明確な場合、RNN(再帰型ニューラルネットワーク)という用語が使用されていても、当該RNNが他のソフトウェアやハードウェアと協働して、情報処理の目的(メモリアクセスアドレスの予測)に基づいて特定の情報処理を実現していることが明確に開示されていないため、発明の適格性が認められませんでした。

【肯定事例】
請求項において、「データ取得ユニット」、「演算ユニット」、および「集積回路(IC)上に実装されたRNN(再帰型ニューラルネットワーク)ユニット」が記載されています。これらはそれぞれ、メモリアクセスアドレスの取得、アドレス差分値の算出、対応するシーケンスデータの特徴ベクトル表現の生成、特定メモリブロックの内部状態の選択、および将来のメモリアクセスアドレスの予測を実行するために用いられています。全体として、情報処理の目的に応じて構築された特定の情報処理方法が開示されており、「ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されている」という要件を満たしているため、発明の適格性が認められました。

<実務上の留意点>
請求項(クレーム)の作成においては、単に機能的なステップを列挙するだけでなく、それらを実行する主体(特定のモジュール、プロセッサ、センサー、IC等)を明確にし、ハードウェアとソフトウェアの協働関係を記述する必要があります。

2.実施可能要件(記載不備)
AI発明は、学習済みモデルの内部処理がブラックボックス化しやすいため、明細書において「なぜその入力データからその出力(予測結果)が得られるのか」という技術的な裏付けが求められます。特に入力と出力の間に合理的な相関関係(因果関係)があるかどうかが厳しく審査されます。

≪事例2-1:マットレス適合度(明細書の記載)≫
【違反事例】
入力データとして「体型特徴」を使用すると記載されているものの、具体的にどの身体特徴(手足の長さ?筋肉量?)を用いるのか、また、学習段階において、寝姿勢の好み情報および体型特徴情報のみをニューラルネットワークモデルに入力しているものの、マットレスに関連する特徴情報が含まれていないため、当該モデルが、どのようにして使用者と各種類のマットレスとの適合度の関連性を学習・識別するのかを理解できません。したがって、当業者が発明を再現できないとして、実施可能要件違反となります。

【適合事例】
入力データとして「身長・体重・肩幅・臀部幅」を特定し、ニューラルネットワークモデルを用いてこれらの情報を分析することで、被験者と各種類のマットレスとの適合度スコアを推定することが可能です。また、被験者データとマットレス属性情報を入力とし、実際の評価スコアを正解ラベルとする「教師学習」の手順が具体的に開示されています。したがって、入出力の相関関係およびAIの訓練方法が明確であるため、実施可能要件を満たします。

≪事例2-2:銀行顧客の行動予測システム≫


【違反事例】
入力データとして顧客の「干支」、「星座」等を、出力データとして「投資商品の購入有無」を使用する事例です。一般的な知識に基づけば、星座と投資行動に合理的な相関関係があるとは認め難く、明細書にその相関を裏付ける説明もなければ、予測の妥当性が不明(予測可能性不足)となるため、実施可能要件違反となります。

【適合事例】
入力データとして、「過去の取引履歴」に加えて、顧客の現在の経済状況や意向を反映した「現況データ」(収入源、理財目的、リスク評価など)を組み合わせることで、出力結果(投資商品の購入有無)との間に論理的かつ合理的な相関関係が構築されます。さらに、これらのデータを用いてモデルがどのように学習したか(例えば、訓練データの正解ラベルとして「最初の取引時期」を使用する等)という具体的な学習プロセスが開示されているため、予測結果の技術的な裏付け(因果関係)がなされていると判断され、実施可能要件を満たします。

<実務上の留意点>
明細書作成時には、AIに入力するデータが、目的とする出力結果に対して論理的かつ合理的に意味のある(相関関係がある)ものであることを説明する必要があります。入出力データ間に合理的な関連性が認められない場合、出願時の技術常識に基づく立証がなければ拒絶を解消できません。なお、OAが出された後に実験データを提出して主張を補強しようとしても、認められない可能性が高い。

3.進歩性
既存の技術的課題に対して、単に人間が行っていた作業をAIに置き換えただけ、あるいは従来の機械学習手法をディープラーニング(深層学習)に置き換えただけでは、進歩性は認められません。

≪事例3-1:マットレス適合度(進歩性判断)≫
【否定事例】
本願発明と引例1は、体型情報を学習するニューラルネットワークを用いたマットレス適合度計算である点において共通しており、差異は本願発明が訓練データに「寝姿勢の好み情報」を追加した点のみであります。しかし、本願発明は特殊な計算式や前処理を規定しておらず、訓練方式自体は先行技術と変わりません。一方、引例2は、寝姿勢がマットレスの快適性に関連することを既に開示していますので、当業者は引例2の教示に基づき、寝姿勢情報を引例1の追加訓練データとして用いる動機付けを有するため、これにより本願発明は容易に完成でき、進歩性を有しません。

≪事例3-2:道路の破損検知システム≫


【否定事例】
先行技術(引例1:GPSとカメラを搭載した車両、引例2:SVM等の機械学習によるひび割れ検知)が存在する場合、分類器としてSVMを「ディープラーニング(深層学習)」に置換すること自体は、AI技術の通常の知識の適用に過ぎません。引例1には請求項1の入出力データが全て開示されており、その相違点は機械学習モデルのみに過ぎません。したがって、明細書に記載された具体的な訓練方法(位置情報と画像を組み合わせて破損部分を分類する学習プロセス、画像の前処理、特徴抽出計算等)で請求項を限定し、一般的な深層学習技術との違いや、独自の工夫による従来より顕著な効果(破損部分の分類による特殊な効果など)を明確にすることで、進歩性欠如の指摘を解消する可能性があります。

<実務上の留意点>
「AIを使用した」こと自体を発明の特徴とするのではなく、AIを適用する際の「データの処理方法」、「学習プロセス上の独自の工夫」、「特定の技術課題を解決するためのモデル構造の改良」などに技術的特徴を持たせ、それをクレームに盛り込むことが重要です。

三、まとめ
今回の事例集公表により、台湾におけるAI関連発明の審査基準はより明確になりました。台湾での権利化を目指す際は、以下の点を留意した明細書・クレーム作成が推奨されます。
  • ハードウェア構成の明示:クレームにおいて、ソフトウェアがどのハードウェア資源(センサー、プロセッサ等)と協働して情報処理を実現しているかを具体的に記載する。
  • 相関関係の説明:明細書において、入力データと出力データの間の論理的な相関関係や、モデルの学習方法(教師データの内容等)を十分に開示する。
  • 技術的工夫の主張:単なるAIの適用にとどまらず、学習データの加工、モデル構造の最適化、あるいは特定の技術課題を解決するためのモデル構造の改良などの技術的な構成をクレームに盛り込む。

以上の解説により、AIおよびコンピュータソフトウェア発明に関する台湾審査の最新実務動向について、ご理解いただけたかと存じます。


参考資料:
  • 経済部智慧財産局「我國AI相關發明案例集」(2025年10月)
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