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BY 編集部
1.はじめに
台湾の特許実務において、請求の範囲の記載が明細書によって支持されているか否か(サポート要件)は、特許の有効性を左右する重要な争点の一つです。本稿では、実用新案「ハサミのロック機構」の無効審判に関する行政訴訟判決を取り上げます。本件のポイントは、クレームの構成要件と、図面に示されたものとが一見して矛盾している場合に、専利法第26条第2項に規定するサポート要件に違反するか否かという点にあります。知的財産及び商業裁判所は、図面の役割とクレーム解釈の原則に基づき、その判断を下しました。
2.事件の概要と争点
対象実用新案(以下、対象案と称する):対象案は、第M608035号「ハサミのロック機構」に関する実用新案権です。これは、ハサミのハンドル部分に設けられたロック部材と制御ボタンがスライドして開閉を制御する機構に関するものです。
主な争点:対象案の請求項1には、「制御ボタンの当接面と、ロック部材の当接面とが接合する」という技術的特徴が記載されています。これに対し、無効審判の請求人(原告)は、以下の理由に基づいて対象案はサポート要件に違反すると主張しました。
1.はじめに
台湾の特許実務において、請求の範囲の記載が明細書によって支持されているか否か(サポート要件)は、特許の有効性を左右する重要な争点の一つです。本稿では、実用新案「ハサミのロック機構」の無効審判に関する行政訴訟判決を取り上げます。本件のポイントは、クレームの構成要件と、図面に示されたものとが一見して矛盾している場合に、専利法第26条第2項に規定するサポート要件に違反するか否かという点にあります。知的財産及び商業裁判所は、図面の役割とクレーム解釈の原則に基づき、その判断を下しました。
2.事件の概要と争点
対象実用新案(以下、対象案と称する):対象案は、第M608035号「ハサミのロック機構」に関する実用新案権です。これは、ハサミのハンドル部分に設けられたロック部材と制御ボタンがスライドして開閉を制御する機構に関するものです。
主な争点:対象案の請求項1には、「制御ボタンの当接面と、ロック部材の当接面とが接合する」という技術的特徴が記載されています。これに対し、無効審判の請求人(原告)は、以下の理由に基づいて対象案はサポート要件に違反すると主張しました。
- 原告の主張:対象案の図3を参照すると、制御ボタン20の当接面21とロック部材10の当接面111との間には隙間が存在しており、物理的に「接合」していない。したがって、請求項1の「接合」という記載は、図面と矛盾しており、明細書によって支持されていない。
台湾特許庁(TIPO)は「無効審判不成立」の審決を下したため、原告はこれを不服として裁判所に提訴しました。
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【係争案の図2】

【係争案の図3】
3.裁判所の判断
裁判所は、原告の請求を棄却し、特許庁の判断を支持しました。その主な論拠は以下の通りです。
(1)サポート要件に関する法的解釈
「請求項は明細書によりサポートされていなければならない」とは、各請求項に記載された出願対象が明細書に開示された内容に基づいていること、かつ、請求項の範囲が明細書に開示された内容の範囲を超えてはならないことを要求するものである。また、図面の役割は、明細書の記載のみでは不十分な部分を補完することにあり、当業者が明細書を読む際に、図面によって各技術的特徴及びそれらにより構成される技術的手段を直接理解できるようにすることにある。
(2)「接合」の解釈と明細書の記載
裁判所は、対象案の明細書全体、特に段落【0006】および【0016】の記載を検討しました。そこには、「制御ボタン20の当接面21とロック部材10の当接面111面とが接合する」旨が記載されています。裁判所は、本件における「接合」の意味について、図3も参照しつつ、以下通り説明しました。
- 請求項1における「接合」とは、制御ボタンの当接面と当該ロック部材の当接面とが連結されており、かつ連結後に摺動可能であることを意味することがわかる。
- その「接合」の方式については、明細書の記載不足の部分を補完するために、係争案の図3を参酌すべきである。図3には、係争案の制御ボタン20とロック部材10の当接面(21、111)が、連結してロック機構全体の当接面となっていることが開示されている。
- したがって、請求項1は、「制御ボタン20の当接面21と当該ロック部材10の当接面111とが、両者『同一平面かつ連続』する形態にて、ハンドル30の係合溝31に当接して摺動する」という意味に解釈すべきであり、すなわち「接合」という用語は、「同一平面かつ連続」と解釈すべきである」。
(3)図面の「隙間」に対する評価
原告が指摘した図3における「隙間」について、裁判所は以下のように認定しました。
- 明細書の記載(段落【0006】、【0016】)は請求項1の記載と一致しており、十分にクレームを支持している。
- 図3において両者の当接面が離れているように見える(隙間がある)点は、作図上の軽微な瑕疵、あるいは鋭利なエッジを避けるための面取りといった設計上の慣用手段に過ぎない。
- このような図面の些細な不一致は、当業者が明細書全体の技術内容を理解する妨げにはならず、サポート要件違反と認定すべきではない。
4.本判決の実務的意義と分析
本判決は、台湾におけるクレーム解釈と図面の関係性について、以下の重要な意義を示しています。
(1)クレーム解釈の原則と図面の役割:請求項の解釈は、請求項の記載に基づくことを基本としつつ、明細書、図面、及び出願時の技術常識を参酌して行われます。解釈にあたっては、原則として請求項の用語に対し、明細書と整合する範囲で最も広義かつ合理的な解釈を与えるべきであります。明細書において特定の定義がなされている場合はそれを考慮し、請求項の記載に疑義がある場合には、明細書・図面・技術常識を併せて考慮する必要があります。本件において原告は、係争特許の図3では「ロック部材」と「制御ボタン」の当接面の間に隙間が存在し、接合していないように見えることを根拠に、請求項1の記載と図面が不一致であると主張しましたが、図面の役割はあくまで明細書の記述の不足を補う点にあり、たとえ図面の描写が請求項や明細書の文言と完全に一致していなくとも、実施例や図面の記載のみをもって請求項の範囲を限定的に解釈すべきではありません。
(2)「サポート要件」の法的適用に関する誤解:原告は、請求項1と図3の不一致が専利法第26条第2項に違反すると主張していますが、法は「請求項が『図面』によりサポートされていなければならない」とは規定していません。したがって、請求項が図面と完全に一致しないことを理由にサポート要件違反と主張することは、法的根拠を誤った主張と考えられる。
5.結論
本判決により、台湾の裁判所は形式的な図面の不備よりも、明細書の記載から読み取れる技術的思想の実質を重視する姿勢を明確にしました。「制御ボタンとロック部材の接合」というクレームの文言は、明細書の記載によって十分に支持されており、図3の描写の不正確さは当業者の理解を阻害しないとして、実用新案の有効性が維持されました。
※本記事に関してご不明な点がございましたら、いつでもお気軽にipdept@taie.com.twまでお問い合わせ下さい。