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BY 編集部
一、前言
知的財産権者は権利を取得した後、市場において他社による権利侵害行為を発見した場合、自らの権利を守るために、警告書の送付から当事者間の交渉、そして最終的には訴訟を提起し、裁判所に侵害の有無を判断してもらうという一連の法的措置がとられることが多いです。裁判所が被告の行為を侵害と認定した後、当事者双方の主な争点は損害賠償額に移りますが、実務上、権利者が請求しようとする損害額の推定は容易ではなく、なぜなら、知的財産権による損害額は、必ずしも明確に算出できるものではないからです。また、知的財産権の関連規定、つまり、特許法および商標法には、権利者が第三者に使用許諾する場合に収受する(合理的な)ロイヤリティを基礎として損害額を計算する方法が定められています。本稿では、この算定方法が判例においてどのように認定されているのかをご紹介いたします。
二、特許法及び商標法における、ロイヤリティを損害賠償とした規定
1. 特許法第97条第1項第3号は次のように定められています。「前条に基づき損害賠償を請求する場合、次の各号のいずれかを選んで損害を算定することができる。三、当該特許発明の実施許諾で得られる合理的なロイヤリティーを基礎にしてその損害を計算する。」
また、商標法第71条第1項第4号は次のとおりです。
「商標権者が損害賠償を請求する場合、次の各号のいずれかを選んで損害を算定することができる。四、商標権者が他人に使用許諾を行う場合に収受するロイヤリティ相当額を損害とする。」
2. 特許法第97条第1項第3号及び商標法第71条第1項第4号の規定の立法理由は以下のとおりです。
(1) 商標法第71条第1項第4号の追加理由:
「商標権者以外の者が登録商標を合法的に使用するためには、商標権者からの使用許諾を得てその対価を支払うことにより、使用許諾された範囲内に使用することができます。したがって、無許諾による侵害行為によって商標権者が被る損害は、本来得られるはずであった使用許諾の対価に相当します。」
(2) 特許法第97条第1項第3号の追加理由:
「特許権は無体財産であるため、侵害者が権利者の同意を得ずに実施している場合であっても、権利者は他の第三者に対してライセンスを許諾し、ロイヤリティを受け取るなどして、当該特許を活用し続けることが可能です。…そこで、米国特許法第284条、日本特許法第102条、中国大陸特許法第65条を参照し、合理的な補償方法を設けることで、権利者の立証責任を適度に軽減することとしました。」
3. このように、立法者は知的財産侵害の損害額の立証が困難である点を考慮し、商標権及び特許権の損害額の算定方法としてロイヤリティを算定基礎とする方法を新設しました。そもそも侵害者は、権利者の同意や使用許諾を得ずに知的財産権を使用している者ですが、仮にこれを適法に使用しようとしたならば、当然その対価としてロイヤリティを支払わなければなりません。したがって、立法者が、諸外国の法制を参照し、ロイヤリティ相当額を損害額とする算出方法を導入したことは、合理的であるといえます。
三、ロイヤリティを損害賠償の算定方法とした判決の紹介
1. 特許権に関する判決
(1) 知的財産及び商業法院2024年度民専訴字第10号民事判決
本件において原告は、特許法第97条第1項第3号に基づく損害賠償の算定方法を採用し、証拠として訴外第三者と締結した特許ライセンス契約書を提出しました。当該契約の有効期間は1年間、ライセンス料は30万元でした。裁判所は、被告がShopee(蝦皮購物)において侵害製品を2年8か月余りにわたり販売していた事実を考慮し、同期間に換算したロイヤリティ相当額は82万元に達すると判断しました。この金額は原告が本件で請求額している30万元を上回ることから、裁判所は原告の請求には理由があるとして、被告に対し30万元の支払いを命じました。
(2) 知的財産及び商業法院2023年度民専訴字第43号民事判決
本件においても、原告は特許法第97条第1項第3号に基づく損害賠償の算定方法を主張し、証拠として訴外第三者との特許ライセンス契約書を提出しました。当該契約のライセンス期間は2020年5月20日から2024年11月18日までの4年半であることから、裁判所は年間のロイヤリティー相当額を66,666元(計算式:30万元÷4.5≒66,666)と認定しました。裁判所は、被告がShopeeにおいて4年間にわたり販売していたものの、その販売数はわずか9件、単価399元にとどまる点を考慮し、本件特許の侵害期間を1年間として計算するのが相当であると判断しました。結論として、原告の請求は66,666元の範囲で理由があるとして認容し、これを超える部分については棄却しました。
2. 商標権に関する判決
知的財産及び商業法院2020年度民商上更(一)字第2号民事判決
本件において裁判所は、商標法第1項第2号の規定に基づき、被上訴人による「HiTutor」商標の侵害行為から得られた利益は、上訴人の請求額を遥かに上回ると認定しました。また、上訴人は本件において、清華大学の修士論文に引用された知的財産研究機関作成の統計報告書を提出しました。同報告書によれば、商標ロイヤリティ率の大部分は企業の純売上高の5%、次いで10%であり、平均的には5~10%の範囲にあるとされています。上記ロイヤリティ率を参考とした場合、上訴人の請求額は過大ではないといえるため、裁判所は上訴人が被上訴人らに対して求めた1,000万元の損害賠償請求には理由があるとして、これを認容しました。
四、まとめ
特許権および商標権の侵害訴訟において、権利者がロイヤリティ相当額を損害賠償の算定根拠とする場合、最も理想的なのは、過去に第三者へのライセンス許諾実績が存在するケースです。この場合、権利者は過去に締結したライセンス契約書を提出するだけで、裁判所の認定の基礎とすることができます。一方、過去にライセンス契約が存在しないにもかかわらず、同様の主張を行う場合には、補強材料として更なる証拠資料や他の算定方法を提示する必要があります。また、裁判所も個別の事案に応じてロイヤリティの範囲や合理性を裁量により判断し、相当な賠償額を算定することになります。
五、参考資料
知的財産及び商業法院2024年度民専訴字第10号民事判決
知的財産及び商業法院2023年度民専訴字第43号民事判決
知的財産及び商業法院2020年度民商上更(一)字第2号民事判決
※本記事に関してご不明な点がございましたら、いつでもお気軽にipdept@taie.com.twまでお問い合わせ下さい。
一、前言
知的財産権者は権利を取得した後、市場において他社による権利侵害行為を発見した場合、自らの権利を守るために、警告書の送付から当事者間の交渉、そして最終的には訴訟を提起し、裁判所に侵害の有無を判断してもらうという一連の法的措置がとられることが多いです。裁判所が被告の行為を侵害と認定した後、当事者双方の主な争点は損害賠償額に移りますが、実務上、権利者が請求しようとする損害額の推定は容易ではなく、なぜなら、知的財産権による損害額は、必ずしも明確に算出できるものではないからです。また、知的財産権の関連規定、つまり、特許法および商標法には、権利者が第三者に使用許諾する場合に収受する(合理的な)ロイヤリティを基礎として損害額を計算する方法が定められています。本稿では、この算定方法が判例においてどのように認定されているのかをご紹介いたします。
二、特許法及び商標法における、ロイヤリティを損害賠償とした規定
1. 特許法第97条第1項第3号は次のように定められています。「前条に基づき損害賠償を請求する場合、次の各号のいずれかを選んで損害を算定することができる。三、当該特許発明の実施許諾で得られる合理的なロイヤリティーを基礎にしてその損害を計算する。」
また、商標法第71条第1項第4号は次のとおりです。
「商標権者が損害賠償を請求する場合、次の各号のいずれかを選んで損害を算定することができる。四、商標権者が他人に使用許諾を行う場合に収受するロイヤリティ相当額を損害とする。」
2. 特許法第97条第1項第3号及び商標法第71条第1項第4号の規定の立法理由は以下のとおりです。
(1) 商標法第71条第1項第4号の追加理由:
「商標権者以外の者が登録商標を合法的に使用するためには、商標権者からの使用許諾を得てその対価を支払うことにより、使用許諾された範囲内に使用することができます。したがって、無許諾による侵害行為によって商標権者が被る損害は、本来得られるはずであった使用許諾の対価に相当します。」
(2) 特許法第97条第1項第3号の追加理由:
「特許権は無体財産であるため、侵害者が権利者の同意を得ずに実施している場合であっても、権利者は他の第三者に対してライセンスを許諾し、ロイヤリティを受け取るなどして、当該特許を活用し続けることが可能です。…そこで、米国特許法第284条、日本特許法第102条、中国大陸特許法第65条を参照し、合理的な補償方法を設けることで、権利者の立証責任を適度に軽減することとしました。」
3. このように、立法者は知的財産侵害の損害額の立証が困難である点を考慮し、商標権及び特許権の損害額の算定方法としてロイヤリティを算定基礎とする方法を新設しました。そもそも侵害者は、権利者の同意や使用許諾を得ずに知的財産権を使用している者ですが、仮にこれを適法に使用しようとしたならば、当然その対価としてロイヤリティを支払わなければなりません。したがって、立法者が、諸外国の法制を参照し、ロイヤリティ相当額を損害額とする算出方法を導入したことは、合理的であるといえます。
三、ロイヤリティを損害賠償の算定方法とした判決の紹介
1. 特許権に関する判決
(1) 知的財産及び商業法院2024年度民専訴字第10号民事判決
本件において原告は、特許法第97条第1項第3号に基づく損害賠償の算定方法を採用し、証拠として訴外第三者と締結した特許ライセンス契約書を提出しました。当該契約の有効期間は1年間、ライセンス料は30万元でした。裁判所は、被告がShopee(蝦皮購物)において侵害製品を2年8か月余りにわたり販売していた事実を考慮し、同期間に換算したロイヤリティ相当額は82万元に達すると判断しました。この金額は原告が本件で請求額している30万元を上回ることから、裁判所は原告の請求には理由があるとして、被告に対し30万元の支払いを命じました。
(2) 知的財産及び商業法院2023年度民専訴字第43号民事判決
本件においても、原告は特許法第97条第1項第3号に基づく損害賠償の算定方法を主張し、証拠として訴外第三者との特許ライセンス契約書を提出しました。当該契約のライセンス期間は2020年5月20日から2024年11月18日までの4年半であることから、裁判所は年間のロイヤリティー相当額を66,666元(計算式:30万元÷4.5≒66,666)と認定しました。裁判所は、被告がShopeeにおいて4年間にわたり販売していたものの、その販売数はわずか9件、単価399元にとどまる点を考慮し、本件特許の侵害期間を1年間として計算するのが相当であると判断しました。結論として、原告の請求は66,666元の範囲で理由があるとして認容し、これを超える部分については棄却しました。
2. 商標権に関する判決
知的財産及び商業法院2020年度民商上更(一)字第2号民事判決
本件において裁判所は、商標法第1項第2号の規定に基づき、被上訴人による「HiTutor」商標の侵害行為から得られた利益は、上訴人の請求額を遥かに上回ると認定しました。また、上訴人は本件において、清華大学の修士論文に引用された知的財産研究機関作成の統計報告書を提出しました。同報告書によれば、商標ロイヤリティ率の大部分は企業の純売上高の5%、次いで10%であり、平均的には5~10%の範囲にあるとされています。上記ロイヤリティ率を参考とした場合、上訴人の請求額は過大ではないといえるため、裁判所は上訴人が被上訴人らに対して求めた1,000万元の損害賠償請求には理由があるとして、これを認容しました。
四、まとめ
特許権および商標権の侵害訴訟において、権利者がロイヤリティ相当額を損害賠償の算定根拠とする場合、最も理想的なのは、過去に第三者へのライセンス許諾実績が存在するケースです。この場合、権利者は過去に締結したライセンス契約書を提出するだけで、裁判所の認定の基礎とすることができます。一方、過去にライセンス契約が存在しないにもかかわらず、同様の主張を行う場合には、補強材料として更なる証拠資料や他の算定方法を提示する必要があります。また、裁判所も個別の事案に応じてロイヤリティの範囲や合理性を裁量により判断し、相当な賠償額を算定することになります。
五、参考資料
知的財産及び商業法院2024年度民専訴字第10号民事判決
知的財産及び商業法院2023年度民専訴字第43号民事判決
知的財産及び商業法院2020年度民商上更(一)字第2号民事判決
※本記事に関してご不明な点がございましたら、いつでもお気軽にipdept@taie.com.twまでお問い合わせ下さい。