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02.10.2011
「HERMES」商標権侵害事件

訴訟標的:損害賠償額の請求
係争商標:「HERMES」
係争指定商品/役務:かばん
引用商標:「HERMES」及び「HERMES及び馬車の図形」(バーキン)
関連条文:商標法第61条、第63条、第64条


判決要旨:本案において、押収された係争商標の商標権を侵害した係争かばんは、4つのみであるが、他人の商標を盗用した侵害商品は、正規以外の販売ルートを介して取引されることが多く、その実際の販売数量については、侵害者が黙秘することが多いことから、被侵害者が被った損害を計算又は証明できる根拠の提出は困難である。更に、他人の商標権に対する侵害が調査されている事実を知った侵害者は、手段を問わずに侵害商品の販売を一層加速させ、被害者に更なる被害を齎すことになる。一方、被侵害者が押収できる侵害商品の数は少なく、実際の被害状況については証明できないため、合理的な賠償額を獲得することはできない。このことは、公平性に背くと共に、前述のような侵害行為を助長することにもなる。故に、本案原告が、商標法第63条第1項第3号に基づき、押収された商標権侵害商品の小売価額単価の500倍から1500倍の金額を損害金額とした計算は合理であると言える。

判決概要:

一、両当事者の主張  

(一)原告であるフランスのエルメス・アンテルナショナル社は、『「HERMES」及び「HERMES及び馬車の図形」商標は既に消費者に熟知され、著名商標であると共に、そのバーキンシリーズの商品は、定番の人気商品である。一方、被告は、「HERMES」及び「HERMES及び馬車の図形」商標が原告の登録商標であることを知りながら、2004年12月及び2005年6月に原告の許可なく前掲商標を模倣した4つのかばんを海外から輸入販売した。又、本案刑事2審においては、被告の行為を、商標法第61条第1項、第63条第1項第3号及び第64条に基づき原告商標権の侵害と認定して有罪の判決を下し、損害賠償責任を有するとした。なお、被告が販売に携わった、原告の登録商標である「HERMES」及び「HERMES及び馬車の図形」商標を付したかばんに係る材質及び色彩は原告のものとは異なり、また、各かばんの販売金額の合計は、NT$205万元(US$68,333)である。このことから、本案の賠償金額を最低の500倍とすれば、原告が被った損失範囲は10億2,500萬元という計算になる。』ことを主張している。

(二)これに対して被告は、「商標法第63条第1項第1号に規定される賠償の請求権利は、侵害商品の数量が多く、広く販売されているが、実際に押収できる侵害商品の数が極めて少なく、賠償金額と損害金額とが見合わない場合には、商標権利者に侵害商品の小売価額単価の500倍から1500倍の賠償金額の請求権利を与えることになっている。しかしながら、本案については、2005年から4年も経過した現在、市場に流通されているものが、前記4つのかばんのみであるのにもかかわらず、原告が被告に対して請求した賠償金額は、原告の台湾における8~9年間の売上げ高に相当するものである。従って、原告の請求は、明らかに商標法第63条第1項第3号の規定の趣旨に見合わないものである。」と抗弁した。

二、本案の争点: 原告が請求した損害賠償金額に対し理由があるか。 

三、判決理由

小売価額単価とは、他人の商標権を侵害した商品に係る実際の販売単価のことであり、商標権者自身の商品に対する小売価額単価或いは卸売価額単価のことではない。

(一)商標法第66条(原文においては、「商標法第66条」とありますが、恐らく「商標法第63条」のタイピングミスであると思われます。)第1項第3号の規定によれば、損害賠償金額とは、「発見し押収した侵害商品の小売価額単価に基づき算定するもの」であり、「侵害された商標権の商品の小売価額単価に基づき算定するもの」ではない。また、本案に係る模造かばんの小売価額単価は、それぞれ23万元、22万元、80万元、80万元などであることから、その小売価額単価は、前記総額の平均値である51万2千5百元にて算定すべきであるので、原告の「小売価額単価を販売総額にて計算すべきである」との主張は却下されるべきである。更に、被告における本案商標権の侵害期間が約半年であり、侵害商品である模倣品を真正品として高単価で販売したこと、及び原告が侵害により被った損害及び被告が侵害により取得した利益を考慮すると、侵害賠償金額を500倍にて算定するのが妥当であると認定した。

これによれば、その損害賠償額は、256,250,000元(計算方式:512,500X500=256,250,000)となり、原告の損害賠償金額の請求はこれを超えているので、却下すべきである。更に、前記条文における損害賠償金額の計算方式は、損害商品の押収が困難であり、かつ、商標権者に対してその被った損害について証明できる証拠の提出が困難である場合のために規定されたものである。従って、係る損害賠償金額について、該条文を計算方法として選択した以上、同条同項における第1号及び第2号に規定される「係争商標に係る通常獲得できる利益」、「侵害を受けた係争商標が獲得できる利益」、「係争商標のコスト、必要な支出、若しくは、係争かばんの販売により取得した収入」等の状況に対する立証責任を負う必要はない。
 

(二)被告は、「被告が台湾士林地方裁判所警察署に起訴された時及び本案に係る刑事判決が出された後、マスコミにより大きく報道されたため、仮に被告が販売した模倣品が他にも市場に出回っているものがあるとしたら、大金を支払った購入者は被告に対し告訴を提起したはずであるが、本案は、2005年に立件されてから既に4年も経過しており、前述の4つのかばんの他に、被告が販売した模倣品のかばんが市場に流通しているのを発見できなかったことから、係る模倣品のかばんの販売数量を推定できないことはない。又、台湾においては、『バーキンバッグ』の年間販売数量は僅か数十個であるのに対し、原告が被告に対して請求した賠償金額は、原告の台湾における8~9年間の売り上げ高に相当するものである。

故に、原告の請求は、明らかに商標法第63条第1項第3号の規定の趣旨に見合わないものであるので、原告の主張は採用すべきではない。」と抗弁した。しかしながら、商標法第1条における立法の趣旨には、「商標権及び消費者の利益を保護し、市場の公正な競争を維持し、並びに工業及び商業の正常な発展を促進するためのものである」と規定され、又、この条文は、商標権者が長期に亘り企業経営に努力を注ぎ込んだ結果である商標及び企業イメージ、並びに営業主体及び出所の表彰、消費者の利益を保護することが目的であると共に、企業経営に努力を注がない卑劣な企業が、商標権者が長年に亘り市場において心血を注ぎ築き上げてきた企業イメージに便乗し、低コストの模倣品を真正品として販売し、消費者を混同させ不正な利益を獲得することによる、消費者の利益及び商標権者の権利への被害を防ぐためにある。

本案において、押収された係争商標の商標権を侵害した係争かばんは4つのみであるが、他人の商標を盗用した侵害商品は、正規以外の販売ルートを介して取引されることが多く、また、侵害者が侵害商品を販売することにより得た利益の額については、相手の商業秘密であるため、被侵害者の被った損害の額を計算又は証明できる根拠の提出は困難である。

更に、他人の商標権に対する侵害が調査されているを知った侵害者は、手段を問わずに侵害商品の販売を一層加速させるので、被害者に更なる損失を与えることになる。一方、被侵害者が押収できる侵害商品の数は少なく、実際の被害状況については証明できないため、合理的な賠償額を算出することはできない。このことは、公平性に背くと共に、前述のような侵害行為を助長することにもなる。故に、本案原告が、商標法第63条第1項第3号に基づき、押収された商標権侵害商品の小売価額単価の500倍から1500倍の金額を損害金額とした計算は合理である。


四、判決の結果

原告が被告に対し2億5千6百25萬元の賠償金額を請求し、その弁済期間は、刑事を兼ねた民事起訴状副本が到着した翌日、即ち、2008年9月4日から弁済が完了するまでとする。尚、その利息は年利5%で計算する。また、本案には理由があると認め、許可すべきである。

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