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【台湾知財判決解説】証拠に基づく進歩性の判断 -「連続型同期成膜装置」実用新案無効審判取消訴訟(111行専訴52)-

【台湾知財判決解説】証拠に基づく進歩性の判断 -「連続型同期成膜装置」実用新案無効審判取消訴訟(111行専訴52)-

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編集部

1.はじめに
台湾の特許・実用新案実務において、進歩性の判断、特に引用文献と出願時の技術常識(周知技術)を組み合わせて当業者が容易に発明を完成できるか否かは、権利の有効性を左右する極めて重要な争点の一つです。本稿では、実用新案「連続型同期成膜装置」の無効審判に関する知的財産及び商業裁判所の行政訴訟判決(111行専訴52)を取り上げます。

本件のポイントは、証拠6が係争案の請求項1の進歩性を否定するのに十分であるか、そして特許権者自身の別出願における「先行技術」の記載がどのように技術常識の認定に影響を与えたかという点にあります。

2.事件の概要と主な争点
     •   対象実用新案(係争案):
対象案件は、第104200991N01号「連続型同期成膜装置」に関する実用新案です。係争案の請求項1の主な内容は以下の通りです。「真空チャンバー内に(n+1)個のバッファ区間とn個の成膜区間が配列方向に沿って交互に配置され(n≧2)、複数のキャリアがそれぞれ一つの被成膜物を載置し、前記複数の成膜区間と前記複数のバッファ区間との間を移動可能にそれぞれ制御される。特に、各キャリアが各成膜区間において成膜プロセスを実行する際、各成膜区間とその前後のバッファ区間(11)との三者間を往復移動できるという技術的特徴を有する。」

     •   主な争点:
争点は、「証拠6は係争案の請求項1が進歩性を有しないことを証明するのに十分であるか」という点です。

     •   台湾特許庁(TIPO)の見解:
証拠6は成膜装置を開示しているものの、係争案の核心的特徴である「各成膜区間とその前後のバッファ区間との三者間を往復移動できる」という構成を開示していません。また、証拠6の教示内容は「被成膜物が各チャンバーを順次通過する」というものであり、上記往復移動の技術的特徴を当業者が容易に推考することはできないとしました。

3.裁判所の判断
特許庁の判断に対し、裁判所はこれを覆し、証拠6およびその他の証拠に基づき、係争案の請求項1は進歩性を有しないとの判断を下しました。その主な論拠は以下の通りです。

(1)     証拠6における差異に関する技術的特徴の評価
証拠6の明細書には、被成膜物がバッファ空間で待機したり、搬送システムの伝送速度を調整するなどの「バッファ動作」を行うことができる旨が開示されています。これは、両面成膜装置が被成膜物を単一方向へ等速で搬送することを必須としていないことを教示するものです。さらに、成膜の厚さを増すため、あるいは成膜の均一性を向上させるために、被成膜物を成膜区間(堆積空間)において複数回変位させ、反復して通過させることは、成膜技術分野において容易に想到し得る技術手段であると認定しました。

(2)     参加人の別出願(甲証6)による「技術常識」の自認と裏付け
参加人が別途出願した甲証6(台湾特許第I513840号)の明細書の【先行技術】には、次のような記載がありました。「量産過程において、多層膜を均一に成膜するため、被成膜物は各成膜区間にて成膜プロセスを実行する際、各成膜区間のターゲットの下方で複数回変位する必要がある。」参加人自身が、甲証6の出願日前に、被成膜物を均一に成膜するために各成膜区間で複数回変位させて反復通過させることが、係争案の出願前における一般的な成膜量産設備分野の技術常識であったことを自認していることが確認されました。

(3)     結論
証拠6は、バッファー空間-堆積空間(成膜区間)-バッファー空間が順次配置され、バッファー空間において被成膜物がバッファー動作を行うことを既に開示しています。これに加えて、成膜の厚さや均一性を向上させるために被成膜物を前後のバッファー区間内で複数回変位し成膜区間を反復通過させることが技術常識であったことを参酌すれば、当業者は証拠6の装置において、堆積空間とその前後のバッファー空間との三者間を往復移動できる堆積治具(キャリア)を採用し、被成膜物が三者間を往復して反復通過するように調整できたはずです。したがって、係争案の請求項1は証拠6の技術内容の単なる簡単な変更にすぎず、予期せぬ効果も生じていないため、当業者が容易に完成できるものとして進歩性を有しないと結論付けられました。

4.判決の検討
本判決は、進歩性判断における「差異技術特徴の容易推考性」に関する解釈を示しています。係争案と証拠6の主要な相違点は、証拠6が「キャリアが成膜区間と前後のバッファ区間との三者間を往復移動する」ことについて開示も示唆もされていない点にありました。しかし裁判所は、証拠6が「単方向の等速搬送を必須としない」と教示している事実と、成膜の厚さの増加や均一性の向上のために「被成膜物を反復通過させる」という出願前の技術常識を組み合わせることで、当業者はその相違点を克服できると判断しました。

特筆すべきは、技術常識の認定において、甲証6の明細書中にある【先行技術】の記載が決定的な役割を果たした点です。甲証6は「三者間の往復移動」という係争案の文言そのものを完全に開示していたわけではありませんが、裁判所は「多層膜を均一に成膜するために複数回変位して反復通過させる」という技術内容が周知であったことを裏付ける十分な証拠であると認定しました。

5.関連図面
【係争実用新案の図1】
 

符号の説明:
1:真空チャンバー(証拠6のプロセスチャンバー4に対応)
2:陰極スパッタリングターゲットアセンブリ(証拠6のターゲット423、433に対応)
3:キャリア
4:搬送機構(証拠6の搬送システム7に対応)
5:入口バルブ
6:出口バルブ
7:自動還流ユニット(71アンロードチャンバー、72ロードチャンバー等)
11:バッファ区間(証拠6のバッファ空間41、44、45に対応)
12:成膜区間(証拠6の堆積空間42、43に対応)
21:ターゲット
41:搬送アセンブリ

【証拠6 図4】
 

【証拠6 図5】
 

6.結論と実務上のアドバイス
(1)     「簡単な変更」による進歩性欠如の認定
出願特許の発明と単一の引用文献の技術内容との間に相違する技術的特徴がある場合でも、当業者が特定の課題を解決する際に、出願時の技術常識を利用して、その相違特徴を簡単に修飾、置換、省略、または転用して発明を完成させることができる場合、その発明は引用文献の「簡単な変更」とみなされます。本件では、引用文献に直接開示がなくても、技術常識を当てはめることで進歩性が否定されました。

(2)     自社の明細書における「先行技術」の記載がもたらすリスク(補強証拠)
更に、本件で実務上留意すべき点は、甲証6の公開日(2016年7月1日)自体は係争案の出願日より後であったものの、甲証6が係争案の特許権者自身の出願(2014年12月25日出願)であったという事実です。特許権者が自らの出願明細書で【先行技術】として記載した内容は、「自認」として扱われ、係争案出願時における「技術常識」を認定するための補強証拠となりました。実務においては、特許明細書を作成する際、【先行技術】の欄に記載する内容が、将来的に自社の別出願の特許性を否定する証拠となり得るリスクを十分に認識し、今後の明細書作成において特段の留意を払う必要があります。

※本記事に関してご不明な点がございましたら、いつでもお気軽にipdept@taie.com.twまでお問い合わせ下さい。
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