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BY 蕭 人瑄
台湾専利法第59条第1項第3号の規定によると、出願人が出願を行った時点で、その発明の実施に係る既存の事業やそれを準備していた者に認められる権利は、いわゆる先使用権(Prior User Rights)である。つまり、特許権の効力は、先使用権を有する者(先使用権者)に及ばないことから、先使用権者は、他者の特許権を無償で実施し、事業を継続することができる。故に、先使用権制度は、産業の利用・実施において特許権者と他者の利益とのバランスを取るために重要な制度であると言える。台湾で先使用権を主張する場合、国内で先使用行為があったことが前提で、下記要件のいずれかに該当しなければならない。以下、文末に添付した関連条文を参照しながら、説明する。
1.特許出願日前(優先権日前)より先に使用行為(製造、販売の申し出、販売、使用、又はこれらを目的として輸入する行為)があったこと。
2.特許に係る発明が実施されていた。若しくは、その必要な準備が既に完了していたこと。
但し、特許出願者のところでその発明を知ってから12ヶ月未満で、かつ特許出願者がその特許権を留保する旨を声明した場合、先使用権は主張できない。
更に、先使用権が認められても原事業目的の範囲内のみにおいて継続して使用することができる。
前記「必要な準備」とは、客観的に認められる事実であり、例えば、相当な投資をしたことや、発明の設計図を完成したこと、発明の実施に必要な設備又は金型等を製造/購入したことが挙げられる。一方、主観的に発明を実施するための準備や、実施に必要な機器等を購入するために銀行に借金することだけでは、「必要な準備は既に完了していた」とは言えない。
なお、前記「原事業目的の範囲内」とは、台湾知的財産局の出版した台湾専利法逐条解説(2014年版)では、「先使用権人は、原事業目的の範囲内において、生産規模を拡大しても、先使用権を主張することができる」ことが示唆されていることから、実施規模の変更について、原事業目的の範囲内において、先使用権者は、先使用権が認定される時の先使用権で保護される製品の生産量又は輸入数量を増大することは可能である。これに対し、販売対象の制限、実施形態の変更(例えば、生産原料の変更等)や改良(例えば、製品特性の向上等)に関し、台湾専利法又はその施行規則においては、「先使用権で保護される製品を一部変更し、又は改良する」ことについて明確に規定されていなく、且つ、訴訟において、先使用権との争点に対する判断順は、権利侵害、特許有効性の有無の判断の後であることから、現時点では、裁判所が「原事業目的の範囲」や、「実施形式の変更(改良等)」について見解を示す判決はないので、どの程度の変更までが認められるのかは不明である。
以上のように、先使用権制度の発展は特に注目に値するものであると共に、先使用権を有効に主張するために、技術の研究開発に関するデータのみならず、輸入、販売に係る書類をできるだけ保存する必要があると考える。
※ご不明点がございましたら、お気楽にipdept@taie.com.twまでお問い合わせ下さい。
関連条文:
《台湾専利法第58条》
発明の特許権者は、本法で別段の規定がある場合を除き、他人がその同意を得ずに、当該発明を実施することを排除する権利を専有する。
物の発明の実施とは、当該物を製造、販売の申し出、販売、使用をする行為、又はこれらを目的として輸入する行為を言う。
方法の発明の実施とは、次の各号に掲げる行為を言う。
1.当該方法を使用する行為。
2.当該方法により直接に製造した物を使用、販売の申し出、販売をする行為、又はこれらを目的として輸入する行為。
特許権の範囲は、特許請求の範囲を基準とし、特許請求の範囲の解釈時には、明細書及び図面を参酌することができる。
要約は、特許請求の範囲の解釈に使用されることができない。
《台湾専利法第59条》
特許権の効力は、次の各号の事項には及ばない。
1.商業目的ではない未公開行為。
2.研究又は実験を目的とする、発明を実施するに必要な行為。
3.出願前、既に台湾内で実施されていたもの、又はその必要な準備を既に完了していたもの。ただし、特許出願権者からその発明を知ってから12ヶ月未満で、かつ特許出願権者がその特許権を留保する旨の表明をした場合は、この限りでない。
4.単に国境を通過するにすぎない交通手段又はその装置。
5.特許出願権者ではない者が受けた特許権が、特許権者による無効審判請求のために無効になった場合、その実施権者が無効審判請求前に善意により台湾内で実施していたもの、又はその必要な準備を既に完了していたもの。
6.特許権者が製造した又は特許権者の同意を得て製造した特許物品が販売された後、当該物品を使用する又は再販売する行為。前記の製造、販売行為は台湾内に限らない。
7.特許権が第70条第1項第3号の規定により消滅してから、特許権者が第72条第2項に従い特許権の効力を回復させ、かつ、公告が行われるまでに、善意で実施していたもの、又はその必要な準備を既に完了していたもの。
前項第3号、第5号及び第7号の実施者は、その原事業目的の範囲内においてのみ継続して使用することができる。
第1項第5号の実施権者は、当該特許権が無効審判請求により取り消された後も、依然として実施を継続する場合、特許権者による書面通知を受領した日から、特許権者に合理的な特許権使用料を支払わなければならない。