More Details
BY 郭仁建
中国第4回の改正専利法は、去る2020年10月17日に中国全国人民代表大会において採決され、2021年6月1日から施行される予定である。今回の改正は、実施に関連する改正(職務発明の奨励の多様化)、実施にかかわる開放許諾制度の新設、権利行使の保護拡大、侵害賠償金額の引き上げ、外観設計(意匠)制度の強化、権利存続期間の補填制度の新設、優先権証明書の提出期限緩和など多岐にわたるものである。以下、その概要を説明する。
1.実施に関連する改正(職務発明の奨励の多様化)
改正後の第6条第1項は、「…、当該従業先は法にしたがいその職務発明創造について専利出願の権利と専利権を処分でき、関連発明創造の実施と運用を促進する」との内容になり、また、改正前の第16条を第15条に繰り上げると共に、「国は、専利権が付与された従業先の、株、オプション、配当等の形で財産権による激励を実施し、発明者又は創作者にイノベーション収益を合理的に分け与えるよう推奨する」との内容を第2項として新設した。
前記改正後の第6条では、職務発明の専利権者の、専利権に対する実施応用を明文化したと共に、改正後の第15条第2項に基づけば、株や、オプション、配当等の、職務発明の奨励の多様化により、発明者または創作者のモチベーションを高めることができる。
2.実施にかかわる開放許諾制度の新設
改正後、実施許諾の形態は、強制許諾のみに限定されることはなくなり、また、第50条の「開放許諾」に係る規定を新設し、改正後の第51条では、開放許諾による出費や、通常許諾に関わる内容、改正後の第52条では、「開放許諾による紛争の管理部門」などの内容を規定している。
開放許諾制度の規定を新設することにより、専利権者は自発的に公衆に向けて開放許諾の意思があることを声明でき、第三者は、公告された許諾実施料の支払いにより発明を実施することができる。また、実体審査を有しない実用新案、及び意匠について、専利権者は、開放許諾声明を提出する時に、専利権評価報告書を共に提出すべきである。
また、新設の第51条では、「開放許諾実施期間、専利権者の納付する年金を減免する」との内容を増訂し、これにより、専利権者のモチベーションを強化して自発的に技術を開放許諾することを図っている。
3.権利行使に関連する改正
改正後の第66条では、専利権侵害紛争が発生したとき、専利権評価報告の請求可能な主体を、元の「当事者双方」から「専利権者、利害関係者、被疑侵害者」に拡大し、改正後の第68、69条においては、専利の法執行を担当する部門と、専利業務の管理を担当する部門との権限を明確に規定した。即ち、法執行を担当する部門は主に、専利詐称の取り締まりを業務とし、且つ専利詐称による違法所得に対する罰金を、元の4倍以下から5倍以下に調整した。また、違法所得がないまたは違法所得が5万元未満の場合は、最高25万元までの罰金を科することができ、罰金の上限を引き上げることによって専利詐称行為の抑制を図っている。
さらに、専利業務の管理を担当する部門の、専利権者または利害関係者の請求に応じて専利権の侵害紛争を処理する時に、採り得る行政措置を制定した。
4.侵害賠償及び訴訟の時効
専利権の侵害に対する罰則について、改正後の第71条においては、「…、故意侵害の状況が深刻な場合、上記の方法に応じて確定された金額の1~5倍の賠償金額とすることができる」と、明確に規定した。
賠償金額について、合理的な支出及び立証責任の転換に係る関連規定も、今回の改正で確定されたので、権利行使にかかる高出費や、立証の困難などの問題が改善されるのであろう。
また、訴訟の時効について、改正後の第74条では、訴訟の時効を二年から三年に延長することにより、専利法の規定を民法と一致させると共に、訴訟の時効の起算要件を緩め、「専利権者または利害関係人が、侵害行為及び侵害者を知った又は知り得た日から起算する」と改正し、つまり、侵害行為及び侵害者の両方を知ってから、訴訟の時効が起算されるので、これにより、権利行使できる時効及び証拠収集の期限が延長されることになった。
更に、知的財産権の保護を強化するために、今回の専利法の改正では、懲罰的損害賠償の制度を導入し、改正後の第71条第1項の規定により、人民法院は、専利権者の損失、侵害人の獲得した利益、専利許諾の許諾料の何れか1つの金額を1~5倍の範囲内で決めることができ、改正後の専利法第71条第2項では、法定の賠償金額の上限を500万元に引き上げると共に、下限を3万元に引き上げた。
この度の改正では、専利権実施及びその運用について、専利権者の合法権益の保護を強化し、専利権の侵害に対する賠償責任の加重、立証責任、訴訟前の保全手続、専利行政保護などに関わる制度の整備、信義則の新設などを行なった。
5.外観設計(意匠)制度の強化
意匠の関連制度の改正は、主に以下の通りである。
改正後の第2条においては、部分意匠の保護を明確に規定した。
改正後の第42条第1項では、国際的調和を図るべく意匠の存続期間を15年に延長した。
改正後の第29条第2項、第30条第2項によれば、意匠の国内優先権制度を増訂し、出願人が意匠を中国国内で初めて出願した日から6ヶ月以内に、同じ主題について専利出願を行う場合、優先権を主張することが可能となった。
中国における現行の専利法及び現行の専利法実施細則には、製品全体に対する意匠の保護しか規定されていなく、製品の部分意匠の保護は認められていなかったが、今回の改正により、部分意匠制度を導入して製品の特定部分に対する革新的な創作を保護することが可能となった。
6.専利権存続期間の補填制度の新設
改正後の第42条第2項(新設)について、現在の、審査時間が長引くことによる専利権者の権利への影響を考慮した上で、規定の期間内において、出願過程における不合理な遅延に対し、専利有効期間の補填を請求することは可能となる。これにより、審査効率の向上が期待できる。ただし、出願人による不合理な遅延、例えば、応答の遅延や、補正の繰り返しなどの状況を除外した。
7.薬品専利期限の補填制度の新設
先進国医薬市場の国際的な調和を図ると共に、現在の欧米や、日本などの先進国は何れも、専利権期間の延長制度を持っていることを鑑み、当該制度の導入により、「中国医療技術の発展」や、「国外の先進医療技術の導入」などを促進するのに役立つことが見受けられる。
改正後の第42条第3項では、「新薬発売承認により占めた時間に対し、専利権期間を補填する」に関わる内容が制定されている。ただし、補填期間は5年を超えてはならなく、新薬の発売が承認された後の総有効専利期間は14年を超えてはならない。
8.パテントリンケージ制度の新設
改正後の専利法第76条の導入は、専利権者の権利に対する保護を強化するためのものである。
各医薬品の専利権に対する侵害は、主に発売中の流通の段階で発生することから、改正後の専利法第76条によると、「関連する当事者は申請中の医薬品の関連する技術方案が他人の専利権の技術的範囲に含まれるかについて裁判所の判決或いは行政機関の行政裁決を求めることができ、薬品監督管理部門はその判決又は行政裁決に基づき承認審査を停止するか否かを判断する」と規定されているので、専利権者の権利を早期に保護できるほか、権利行使の強化に伴い、発明者の創作に対するモチベーションを高めることができる。
9.優先権証明書の提出期限緩和
改正後の第30条では、優先権を主張した場合に提出すべき優先権書類の提出期限が緩和された。発明及び実用新型特許出願は初めて出願した日から16ヶ月以内、意匠は3ヶ月以内に優先権書類を提出しなければならないと規定されている。
※ご不明点がございましたら、お気軽にipdept@taie.com.twまでお問い合わせ下さい