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2020年、世界各国、及び多くの企業がCOVID-19の影響を受け、当初策定した計画に混乱が生じたことから、新しい生活スタイルを強いられることとなった。世界各国と比べ、台湾はこの度のパンデミックに対し、政府の適切な管理、更に国民一人一人の高度な自粛より、COVID-19の影響を極わずかに抑え、また、例えば、世界中に台湾のIC産業の重要性が新たに認識されたなどのことが取り上げられ、台湾の成功を謳っている。以下、台湾知的財産局が発行した知的財産局年次報告書(2020年版)に基づき、2020年の台湾特許と意匠の出願/審査の状況について説明する。
(一)専利出願の推移
①出願件数
台湾での専利出願件数の推移を見ると、2016年以降、一貫して増加傾向を示していたが、2020年は前年に比べ、3.2%減少して72238件となった。詳しく述べると、下表からも分かるように、2020年の特許、実用新案、意匠の件数はそれぞれ、46664、17555、8019件であり、2019年に比べ、実用新案の出願件数は横ばいであるものの、特許、意匠の出願件数は、それぞれ3.3%、8.9%減少した。
特許及び意匠出願件数の減少の原因を更に分析したところ、下図に示すように、特許出願について、内国出願人の出願件数は、2016年以降、一貫して増加傾向を示しているが、外国出願人の出願件数は、2016年から2019年まで増加傾向にあったものが、2020年では27652件となり、2019年の29284件に比べて、約5.6%減少した。
一方、意匠出願について、内国出願人の出願件数は、2016年以降、一貫して減少傾向を示しており、2020年では3947件となり、2019年の4208件に比べて、約6.2%減少した。また、外国出願人の出願件数は2020年では4072件となり、大きく増加した2019年の4596件に比べて、約11.4%減少した。
このように、2020年専利出願件数の減少は、主に外国出願の件数の減少に起因するものであり、これは、新型コロナウイルスの影響が、台湾に比べて、外国の方が深刻であるからではないかと考えられる。
②外国出願人による出願ランキング
特許出願について、国別で見ると、上位5か国は、日本、米国、中国、韓国、ドイルであり、その中、日本からの出願件数は12110件で、2019年の13195件に比べて、約8%減少した。
意匠出願について、国別で見ると、上位5か国は、日本、米国、中国、スイス、フランスであり、その中、米国、中国、スイスからの出願件数は増加したが、日本及びフランスからの出願件数は、それぞれ、約19%及び33%減り、大幅な減少が見られた。
③企業別の出願ランキング
内国出願人の出願件数の上位5社は、TSMC、AUO、REALTE、財団法人工業技術研究院、Acerであり、また、外国出願人の出願件数の上位5社は、クアルコム(米)、AMAT(米)、日東電工(日)、東京エレクトロン(日)、キオクシア(日)であった。
④技術分野別に見た出願動向
技術分野(IPC)に基づき、技術分野別の出願件数の推移について、2017年の上位5分野は、H01L(半導体装置、他に属さない電気的固体装置)、G06F(電気的デジタルデータ処理)、A61K(医薬用、歯科用又は化粧用製剤)、G06Q(データ処理システムまたは方法)、G02B(光学要素、光学系、または光学装置)であったが、2018年以降は、H01L、G06F、A61K、G06Q、H04W(無線通信ネットワーク)となった。これは、5Gの開発に伴い、無線通信ネットワーク分野の出願件数が増加したためと考えられる。
(二)審査の現状
①専利審査官の数
台湾知的財産局における現在の専利審査官の人数は390名であり、その中、契約制の審査官の人数は24名であり、2017年から2019年までの33名、31名、30名に比べ、減少した。
②初審査の特許審査実績
審査請求件数は、2016年以降一貫して増加傾向を示し、査定件数(特許査定、拒絶査定を含む)も、2018年以降増加していたが、2018年の査定件数は39528件であり、2016年や2017年に比べて大幅に減少した。しかし、これは5年任期付審査官が退職したためである。
また、初審査の審査結果について、2020年の特許査定件数は30542件、拒絶査定件数は10509件であり、2019年に比べて、特許査定件数は約2.7%減、拒絶査定件数は約2.7%増となった。これは、台湾知的財産局の、特許審査の質が着実に向上していることを示すものである。
更に、2018年以降、一次審査通知だけではなく、二次審査通知の件数も増加したことを示しており、特に、2019年に比べ、2020年の二次審査通知の件数は約5.1%増加した。これによっても、台湾知的財産局は、特許審査の質の向上に努力していることが伺える。
③特許出願の初審査の一次審査通知までの期間
初審査段階での「一次審査通知までの期間」と「査定までの期間」はそれぞれ、平均9ヶ月以内、平均14ヶ月以内であり、審査期間短縮のニーズへの対応ができていると言える。
④特許出願の再審査の審査実績
再審査請求件数は、2018年から増加傾向にあり、特に2020年の再審査請求件数は、2016年以降で最高値となった。これは、初審査の拒絶査定件数の増加傾向と一致している。
⑤特許出願の再審査の一次審査通知までの期間
再審査段階での「一次審査通知までの期間」と「査定までの期間」はそれぞれ、平均11ヶ月以内、平均14ヶ月以内であり、2018年に比べて審査期間が短縮され、業界の強いニーズに応じたことと言える。また、再審査段階の一次審査通知までの期間は、初審査の審査期間と比べて明らかに時間がかかっているが、査定までの期間はほぼ同様である。
⑥意匠審査の実績
意匠審査の結果について、2020年の意匠審査の登録査定件数は7164件、拒絶査定件数は989件であり、2019年に比べて、登録査定件数は約3.7%増、拒絶査定件数は約33.4%増となった。これは、台湾知的財産局の、審査の質が着実に向上していることを示すものである。
⑦意匠審査の一次審査通知までの期間
2020年における出願から一次審査通知までの期間は平均6.2ヶ月以内、出願から最終処分までの期間は平均7.4ヶ月以内であり、審査期間は、2017年からほぼ横ばいで推移している。
(三)審判の現状
①無効審判請求件数の推移
2020年における無効審判の請求件数は467件であり、2019年に比べて約8.3%増加したが、2016年~2018年における無効審判の平均請求件数(546件)に比べて約14.4%減少した。
②無効審判の審理の動向
無効審判の審理結果について、請求成立(一部成立を含む)とした審決の割合(請求成立率)は、逐年上昇傾向にあり、2020年は約68.5%であった。
③訴願の動向
訴願の請求件数は、逐年減少傾向にあり、2020年は201件であった。また、訴願の結果について、取消決定の割合は、常に約5%以下であり、2020年は僅か2.4%であった。これから見ると、訴願によって無効審判の結果を覆そうとするのはいかに困難であることが分かる。
④行政訴訟(審決取消訴訟)の動向
2020年の行政訴訟の出訴件数は67件であり、前年に比べて約30%減少した。
また、行政訴訟の判決件数から見ると、2018年以降、減少傾向となり、2020年は76件であった。更に、審決取消となった件数(及び割合)について、2018年~2020年はそれぞれ26件(23.2%)、25件(23.4%)、20件(26.3%)であり、割合から見ると、上昇傾向にあった。これは、進歩性要件に関する認定は知財高裁によって覆されたことや、当事者が、知的財産案件審理法第33条の規定に従って新しい証拠を提出したためだと思われる。
(四)早期審査(AEP)・高速審査(PPH)の現状
①早期審査(AEP)の現状
早期審査の請求件数について、2020年は494件であり、その中、事由1(外国対応出願が既に外国の特許庁において実体審査を経て登録査定となったもの)を以て請求した件数が最も多く、294件であった。
また、請求人別から見ると、内国人の請求件数が最も多く、167件であり、主に事由3(出願人が商業的実施を予定しているもの)を以て早期審査の請求を行い、一方、2位と3位はそれぞれ、ケイマン諸島と日本であった。
更に、早期審査を利用した出願の2020年の一次審査通知までの期間は、早期審査の申請から平均1.5~2.5か月以内であって、査定までの期間は、平均4.5~7.5か月以内であり、早期審査を利用しない出願に比べ大幅に短縮されている。
②高速審査(PPH)の現状
高速審査の請求件数について、2020年は1105件であり、その中、上位2か国は、日本(490件、44.3%)、米国(446件、40.3%)であった。
また、高速審査を利用した出願の2020年の一次審査通知までの期間は、公告審査の申請から平均1.5~2か月以内であって、査定までの期間は、平均4~4.5か月以内であり、早期審査の審査期間より短く、高速審査を利用しない出願に比べ大幅に短縮されている。
(五)結論
以上のことから、2020年の台湾での専利出願件数は過去5年間で最低値を示しているが、内国出願人の出願件数は増加し続けているのに対し、外国出願人の出願件数はコロナ禍の影響で、2020年の出願件数が減少し、特に日本からの出願件数は大幅に減少した。
また、審査の実績について、近年、台湾知財局は、審査の質向上を目指した結果、特許拒絶査定の件数が大幅に増加し、再審査の請求件数もそれに応じて増加した。一方、審査期間について、特許初審査と再審査は共に、査定までの期間が平均14ヶ月以内であり、特許初審査と再審査の一次審査通知までの期間もそれぞれ平均9ヶ月、11ヶ月以内であることから、審査の迅速化が着実に進んでいることが分かる。
一方、行政救済について、2020年における無効審判請求件数や、訴願件数、行政訴訟の出訴件数は全て減少した。また、無効審判の請求成立率や、行政訴訟の審決取消率は上昇傾向にあり、訴願が取消決定となった件はかなり少なく、2020年では約2.4%であった。これから見ると、特許権者にとって、行政救済により特許権を維持することは難しくなっていることが分かる。
さらに、早期の権利化について、AEPやPPHを利用すると、審査期間が大幅に短縮されるので、審査の迅速化を求める出願人にとって有効な手段であると言える。
※詳細については、ipdept@taie.com.twまでお問い合わせ下さい。
参考資料:台湾知的財産局年次報告書(2020年版)