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一、前書き
最近、台湾知的財産局(以下、知的財産局と称す)は大幅に改正した専利法草案を提出し、該改正案においては、専利行政救済制度について、現行の再審査制度が廃止されると共に復審制度が別途設けられ、更に、専利権存続期間延長請求案件、訂正案件、専利関連処分不服案件、及び無効審判請求案件等について「現行の一人又は二人による査定」から「三人又は五人による合議審理を原則とする、復審案件や争議案件の審理手続き」に改正すると共に、口頭弁論手続きを導入することにより、手続きの厳密性を強化し、また、審理决定に不服がある場合は、訴願手続きを経る必要がなく、直接訴訟を提起することが可能となる。その改正案に基づけば、台湾知的財産局は「復審及び争議審理会」を設置することにより、専門的、即時的、かつ効率的な救済が得られることを期待している。
二、専利訂正と民事訴訟
知的財産局が公表したここ10年間の専利件数の統計(統計日は2020年1月11日である)によると、無効審判請求案件は、2010年の950件から2019年の431件と年々減少し、その減少の原因は、知的財産案件審理法第16条第1項の規定、即ち、民事訴訟における被告側は、専利有効性の抗弁を提出することができ、裁判所においては、その主張又は抗弁に理由があるか否かについて自ら判断しなければならないことに関係し、別途無効審判手続により専利権を取り消す必要はなくなったことにあると思われる。また、原告側は、その専利有効性を維持するために、訴訟において被告による無効抗弁に反論するほか、係争専利の特許請求の範囲を訂正することにより、被告による無効抗弁に対抗することもでき、実務上、裁判官が審理する際に、被告より何度も新たに無効証拠の組み合わせが提出されたり、原告より何度も訂正が提出されたりすることがあるので、結果的に、裁判所での訴訟期間が長引いてしまい、効率も悪い。さらに、台湾専利法においては、専利権者による訂正請求の提出時点に係わる制限がないので、現在の実務では、知的財産局の査定により専利権が取り消された場合にのみ、知的財産局は訂正請求の受理を拒否でき、裁判所に専利権者が知的財産局への訂正請求の提出を禁止する権限はない。また、専利法第68条第3項においては、「明細書、特許請求の範囲、及び図面が訂正されて公告された場合には、出願日に遡って発効する。」ことが規定され、裁判所において訂正前或いは訂正後の特許請求の範囲に基づいて本願の審理を行うべきかについては、現在、専利民事訴訟の実務上直面している難題である。
三、専利法改正案における専利訂正
改正案第68条第2項の規定では、「専利専門機関においては、訂正請求の審理について、第77条の規定による場合を除き、決定書を作成して出願人に送達しなければならない」と規定され、また、第77条では、「無効審判案件の審理期間中に訂正請求がある場合は、両方の審理及び審決を合併して行わなければならない。専利主務官庁においては、前項の訂正請求に理由があるか否かについて、審理期間中に適時に心証を開示しなければならない。同一の無効審判案件の審理期間中に2以上の訂正請求がある場合、先に提出した訂正請求は、取り下げられるものとみなす。第1項の訂正請求について、専利主務官庁が必要と認めた場合、審理の中間決定を行うことができる。前項の『審理の中間決定』を行ってから『審理の決定』までの期間において、専利権者は訂正請求を再度行ってはならず、無効審判請求者も新たな理由、新たな証拠、又は新たな証拠の組合せを提出してはならない。」と規定されており、無効審判が存在する場合に、専利の訂正請求は争議案件であり、無効審判が存在しない場合に、専利の訂正請求は復審案件である。また、知的財産案件審理法第16条第1項の規定により、被告側による無効審判の請求が少なくなっているので、改正案第68条第3項における「訂正請求を審理したところ、理由がないと認められた場合には、まず期限を定めて出願人に意見書を提出するよう通知しなければならず、期限を過ぎて意見書が提出された場合は、提出されなかったものと見なし、また、期限が満了しても意見書が提出されていない場合は、直接審決を下す。」との規定に基づいて訂正請求を審理することになり、一方、改正案第91条第1項には、「専利復審案件及び争議案件に対する審決取消訴訟は、知的財産及び商業裁判所の専属管轄とする。」ことが明記され、今後、それら案件に関する訴訟の裁判権は、すべて民事裁判所が管轄するものになる。しかしながら、前記改正案に規定された流れによると、専利の訂正請求の可否は短期間で確定できるものではなく、専利民事訴訟において遭遇する「専利権の範囲」に係わる紛争、困惑及び訴訟遅延等の難題、例えば、訂正請求についてその可否を裁判所が自ら判断できるか否かは、今回の専利法改正案において解決されていない。訂正請求についてその可否は、行政権に専属するべきであり、裁判所が越権してはならないと考える人もいるが、裁判所の近年の見解を見ると、訂正請求による訴訟遅延を解決するために、訂正についてその可否は裁判所が自ら判断する権限を有する傾向がある。
四、結語
「人民は、請願、訴願、及び訴訟の権利を有する」ことは、我が国の憲法第16条に定められており、また、訴訟権とは、人民の司法上の受益権であり、即ち、人民は、権利の侵害を受けたとき、法により裁判所に適時の裁判を提起する請求権を有し、且つ聴聞、公正手続、裁判公開請求権、及び手続上の平等権等を含むことを指し(釈字第482号解釈)、台湾の専利訂正請求に、時間及び回数の制限はないが、知的財産局の審査を経て専利権が取り消された場合にのみ、知的財産局はその訂正の受理を拒否することができる。それに対し、中国では、特許請求の範囲に対してのみ補正を行い、更に一般的に、権利付与された特許請求の範囲に含まれていない技術特徴を追加してはならないので(中国専利法実施細則第69条の規定)、台湾での専利権の訂正については、訂正可能な事項及び制限の規定がいずれも中国及び日本より緩い(注:日本特許法第126条第7項で、審査官は、訂正審判時に訂正内容に対し特許要件の審査を行い、引例により訂正内容が特許要件を有しないと判断した場合、訂正は受け入れられないと規定されているのに対し、台湾ではこのような制限はない)。専利民事訴訟において訂正請求に係わる困惑を解決するために、この度の、知的財産局より提出された専利法改正案に合わせて、専利の訂正制度についても検討改正した方がよいのではないかと考える。
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