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BY 魏任国
台湾において、現行の特許侵害訴訟では、実務上、2016年2月に経済部知的財産局が公布した「特許侵害判断要点」を重要な基準として、特許権侵害の有無を判断しており、また、特許侵害判断要点によると、特許侵害判断の流れは主に、下記二つのステップに分けられる。
【ステップ1】
請求項を解釈する。
【ステップ2】
係争特許に係る、解釈後の請求項における技術特徴と、被疑侵害対象に係る、対応する技術内容とを夫々解析してから、それらの対比を行うことにより、被疑侵害対象が係争特許の特許権を侵害するか否かについて判断する。
特許権侵害の有無を判断する時、まず、被疑侵害対象が係争特許の請求項の文言を充足するか否かについて判断し、たとえ係争特許の請求項の文言を充足していなくても、被疑侵害対象に対して「均等論」を適用できるか否かについて判断すべきである。また、「均等論」の制限事項には、主に「オール・エレメント・ルール」、「禁反言」、「先行技術の抗弁」及び「貢献原則」が含まれ、前記いずれかの制限事項が成立した場合、均等論は適用できない。
また、特許侵害判断要点【2.5.1.2 出願経過ファイル】における「特許案について、特許出願から特許権に係る維持までの過程において、特許出願人や特許権者は、審査意見や特許無効審判の理由を克服するために、請求項の用語や技術特徴に対して減縮的な解釈を行った場合、当該出願経過ファイルは、請求項を解釈するための証拠として採用することができる。」との規定の目的は、特許権者が信義誠実の原則及び禁反言の原則に違反することを避けることにある。
一方、「出願経過禁反言(prosecution history estoppel)」について、特許侵害判断要点第54頁における【1.3.1 補正や訂正による出願経過禁反言】の例1に示す態様は即ち、米国の実際案件(Warner-Jenkinson案)であるが、当該案件について、台湾知的財産局と米国最高裁判所とは、異なる見解を持つ。
前記Warner-Jenkinson案について、係争特許は染料を精製する方法に関する発明であり、出願時、係争特許は、その特許請求の範囲で、製造プロセスにおけるpH条件を限定していないが、審査の過程において、審査官は、「pHが9を超える条件でプロセスを行う」との内容が開示されている先行技術文献を提出したことから、当該先行技術文献を回避するために、特許出願人は、「pHが6〜9の条件でプロセスを行う」との技術特徴を、係争特許の請求項に織り込んだ。このことから、被疑侵害対象と、係争特許の請求項との相違点は、「製造プロセスにおけるpH条件が異なる」ことにある(被疑侵害対象は、pHが5.0である条件で製造プロセスを行う)。
米国最高裁判所の見解は、以下の通りである。
審査の過程において、特許出願人は、「pHが9.0を超える条件で、製造プロセスを行う」との内容が開示されている先行技術文献を回避するために、係争特許の請求項に対して限定を行なったことから、「pHが9.0を超える条件で、製造プロセスを行う」とのことは、均等範囲に含まれない。一方、「pHの下限値が6.0である」との技術特徴は、先行技術と区別するために織り込んだ限定ではないことから、「pHが6.0未満である条件で、製造プロセスを行う」とのことは、依然として均等範囲に含まれる。即ち、特許出願から特許権に係る維持までの過程において、特許出願人や特許権者により特許請求の範囲に対して補正や訂正を行い、且つ当該補正や訂正は、先行技術に開示された内容を回避するためのものである場合、当該補正や訂正による制限条件が初めて、請求項の解釈に対する拘束効果を生じるので、均等論は適用できない。
一方、特許侵害判断要点第54頁に開示の例1から分かるように、台湾知的財産局による見解は、以下の通りである。
即ち、当該補正や訂正は、先行技術に開示された内容を回避するためのものであるかどうかに関わらず、特許出願の過程において織り込んだ限定は既に、出願経過禁反言の制限事項になることから、たとえ「pHの下限値が6.0である」との技術特徴を織り込んだ補正が、先行技術文献に開示の範囲と重複する部分を排除するために行なったものでなかったとしても、「pHが6.0未満である」との範囲は、依然として均等範囲に含まれない。
しかしながら、特許出願の過程において、たとえ補正により、先行技術と重複する部分を明確に排除したとしても、当該発明の特許性が必ず審査官に認められるとは限らない。前記例の場合、仮に特許出願人が、明細書の開示内容に基づいて、請求項における製造プロセスの条件を「pHが9.0以下である」に限定したとしても、実務上、審査官に、「出願人は、請求項においてpHの下限値を限定していないので、請求する範囲は不明確である」との理由により拒絶査定される可能性があると思われる。
この場合、審査官の指摘内容を克服するために織り込んだ下限値(例えば、pHが6.0である)は、先行技術と重複する部分を排除するために追加する限定ではなく、審査官の心証を克服するためのものであることから、「特許権者は、限定した下限値以下の部分を明確に放棄した」ことを立証できる客観的な事実が存在しない場合、特許権者よりの「当該下限値以下の範囲に対しては、均等論が適用できる」との主張は、信義誠実の原則及び禁反言の原則に違反していると言い難いだろう。
一方、仮に出願時、特許請求の範囲に「pHが6.0〜9.0である」との技術特徴が既に明記された場合、審査の過程において特許請求の範囲に対する補正が行われていないので、「pHが6.0未満である範囲に対しては、均等論が適用できる」との主張内容が認められることは可能となる。
いずれの場合により得られた、特許査定された特許請求の範囲は実質的に同一であるものの、特許権を行使する際に、「特許権者は、審査の過程において正当な権利を行使した(請求項に対する補正を行なった)ことがある」との原因で、主張できる範囲が実質的に減縮されることになり、このような場合は、「特許権者が正当な権利を行使したこと」に対して罰を与えるようなことになるので、合理的ではない。
しかしながら、「特許侵害判断要点」は、台湾において唯一の、政府から公布された特許侵害に関する判断基準であり、且つ当該特許侵害判断要点には、上記の例が明記されていることから、出願人/特許権者は、補正や訂正を行う時、「特許権を行使する際に、主張できる範囲が実質的に減縮される可能性」を留意し、出願経過禁反言が構成されないように、該発明が保護しようとする範囲を意識しながら、当該補正や訂正を行った方がよいでしょう。
※詳細については、ipdept@taie.com.twまでお問い合わせ下さい。