More Details
2020年に発生したコロナウイルス(COVID-19)の蔓延により、世界各国で多くの企業が影響を受けたことにより、当初策定した計画に混乱が生じた。それに対して、各国政府はそれぞれ、COVID-19の影響を減らすために対策を提出し、それにより、世界経済は全体的に持ち直してきており、特に米国や中国では、コロナ前の水準まで回復してきており、台湾でも半導体産業が好調であることから、2021年の経済成長率やGDPが大幅に成長した。以下、台湾知的財産局が発行した知的財産局年次報告書(2021年版)に基づき、2021年の台湾特許と意匠の出願/審査の状況について説明する。
(一)専利出願の推移
①出願件数
台湾での専利(特実意)出願件数の推移を見ると、2016年以降、一貫して増加傾向を示していたが、2020年は、COVID-19の影響を受けたことにより、前年に比べ3.2%減の72238件となったが、翌年の2021年は、世界的に景気が回復し始め、合計の出願件数は0.5%増加し、前年とほぼ同様であったが、特許出願が前年と比べて5.3%上昇し、この6年間で最大値となった。詳しく述べると、下表からも分かるように、2021年の特許、実用新案、意匠の件数はそれぞれ、49116、15796、7701件であり、2020年に比べ、実用新案と意匠の出願件数がそれぞれ10.0%、4.0%減少したが、特許の出願件数は前述のように5.3%増加した。
特許出願件数の増加原因及び意匠出願件数の減少原因を更に分析したところ、下図に示すように、特許出願については、内国出願人及び外国出願人の出願件数がそれぞれ、19547、29569であって、前年と比べて、2.8%、6.9%増加したと共に、それら両方の出願件数とも、この6年間の最大値であった。
また、意匠出願について、内国出願人の出願件数は、2016年以降、減少傾向の一途をたどり、2021年には3534件で、2020年の3947件に比べて、約10.5%の大幅減少となった。また、外国出願人の出願件数は2021年では4167件で、2020年より2.3%増加したが、大きく増加した2019年の4596件に比べて、約9.3%低かった。
一方、実用新案の出願件数については推移表を添付していないが、外国出願人の出願件数は、この6年間1200件程度を維持している。しかしながら、内国出願人の出願件数は、減少傾向の一途をたどり、2021年の出願件数は14543で、前年と比べて、11.6%減少し、2017年の18343件と比べて、20.7%減少した。
このように、2021年専利出願件数の増加は主に、外国出願件数の増加に起因するものであり、これは、新型コロナウイルスの経済への影響が台湾に比べて外国の方が少なかったと共に、経済回復の状況も、外国の方が早かったからではないかと考えられる。
②外国出願人による出願ランキング
特許出願について、国別で見ると、上位5か国は、日本、米国、中国、韓国、ドイルであり、その中、日本からの出願件数は12221件で、2020年の12110件に比べて約1%増加したが、2019年の13195件に比べると7.4%減少した。一方、韓国からの出願件数の成長が最も顕著で、約3割成長した。
意匠出願について、国別で見ると、上位5か国は、日本、米国、中国、スイス、フランスであり、その中、スイス、フランスからの出願件数はそれぞれ、71%と32%増加したが、日本、米国、中国からの出願件数は減少した。
③企業別の出願ランキング
内国出願人の出願件数の上位5社は前年と同様、TSMC、AUO、Acer、REALTE、財団法人工業技術研究院(注:順位は前年と異なり、Acerが5位から3位となった)であり、一方、外国出願人の出願件数の上位5社は、クアルコム(米)、AMAT(米)、日東電工(日)、SAMSUNG(韓)、東京エレクトロン(日)であり、前年と比べて、三位までは同様であるが、4位にSAMSUNGが入った。
④内国出願人からIP5への出願の動向
特許出願について、一位と二位はそれぞれ米国と中国であり、常に一万件以上の件数を維持しており、特に、米国への出願は、年間約二万件あるのに対し、日本を含むその他のIP5への出願件数は、長い間1000~1500件程度にとどまっている。
意匠出願について、一位と二位はそれぞれ中国と米国であり、年間1000~1500件程度であるが、内国出願人からIP5への意匠出願件数は、それほど多いとは言えない。
⑤技術分野別に見た出願の動向
技術分野別の出願件数の推移について、技術分野(IPC)によると、2018年以降は常に、H01L(半導体装置、他に属さない電気的固体装置)、G06F(電気的デジタルデータ処理)、A61K(医薬用、歯科用又は化粧用製剤)、G06Q(データ処理システムまたは方法)、H04W(無線通信ネットワーク)であったが、2021年は、G06Qの代わりに、G02B(光学要素、光学系、または光学装置)がトップ5に入った以外、3位までは前年と同様であった。
(二)審査の現状
①専利審査官の数
台湾知的財産局における、専利審査官の人数は、現在、379名で、その中、契約制審査官は20名であり、2017年以降減少傾向をたどっている。
②初審査の特許審査実績
審査請求件数は、2016年以降一貫して増加傾向を示し、査定件数(特許査定、拒絶査定を含む)も2018年以降増加していたが、2018年の査定件数は39528件であり、2016年や2017年に比べて大幅に減少した。これは5年任期付審査官が2016年に全て退職したためであると推定できる。
また、初審査の審査結果について、2021年の特許査定件数は31833件、拒絶査定件数は9945件であり、2020年に比べて、特許査定件数は約2.1%増となり、拒絶査定件数は約1.6%減となった。
更に、2018年以降、一次審査通知の件数は増加し続けているのに対し、二次審査通知の件数は、2020年に比べ約5.3%減少した。
③特許出願の初審査の一次審査通知までの期間
初審査段階での「一次審査通知までの期間」と「査定までの期間」はそれぞれ、平均9ヶ月以内、平均14ヶ月以内であり、審査期間短縮のニーズへの対応ができていると言える。
④特許出願の再審査の審査実績
再審査請求件数は、2018年から増加傾向にあり、特に2021年の再審査請求件数は、2016年以降で最高値となった。
⑤特許出願の再審査の一次審査通知までの期間
再審査段階での「一次審査通知までの期間」と「査定までの期間」はそれぞれ、平均11ヶ月以内、平均14ヶ月以内である。再審査段階の一次審査通知までの期間は、初審査段階の一次審査通知までの期間と比べて、明らかに時間がかかっているが、2018年から短縮傾向にあり、業界の短縮化の呼びかけに応じたことと言える。また、再審査段階の査定までの期間は、2018年に比べて長いが、初審査段階の査定までの期間とほぼ同様であった。
⑥意匠審査の実績
意匠審査の結果について、2021年の意匠審査の登録査定件数は7304件、拒絶査定件数は760件であり、2020年に比べて、登録査定件数は約2.3%増、拒絶査定件数は約2.6%減となった。
⑦意匠審査の一次審査通知までの期間
2021年における出願から一次審査通知までの期間は平均6.1ヶ月、出願から最終処分までの期間は平均7.3ヶ月であり、審査期間は、2017年からほぼ横ばいで推移している。
(三)審判の現状
①無効審判請求件数の推移
2021年における無効審判の請求件数は438件であり、2020年に比べて約6.2%減少し、2019年から、無効審判の平均請求件数は、約450件と定着している。
②無効審判の審理の動向
無効審判の審理結果について、請求成立(一部成立を含む)とした審決の割合(請求成立率)は、逐年上昇傾向にあり、2020年は約68.5%で、2021年の成立率は、2020年とほぼ一致の、68.1%であった。
③訴願の動向訴願の請求件数は、2021年は、2020年の201件と比べて、238件で、約18.4%増加したが、訴願の結果について、取消決定の割合は、常に5%以下であり、2020、2021年は僅か2.4%、2.7%であった。これから見ると、訴願によって無効審判の結果を覆そうとするのはいかに困難であることが分かる。
④行政訴訟(審決取消訴訟)の動向
2021年の行政訴訟の出訴件数は70件であり、前年の67に比べてほぼ同様であった。
また、行政訴訟の判決件数から見ると、2018年以降は減少傾向を見せ、2020年は76件であった。更に、審決取消となった件数(及び割合)について、2018年~2020年はそれぞれ26件(23.2%)、25件(23.4%)、20件(26.3%)であり、割合から見ると、上昇傾向にあったが、2021年の審決取消となった件数及び割合は、9件、14.3%であって、前年に比べて、顕著に低減した。これは、主に元処分機関よりの進歩性要件に関する認定が、知財高裁によって覆されたことや、当事者が、知的財産案件審理法第33条の規定に従って新しい証拠を提出したためであると思われる。
(四)早期審査(AEP)・高速審査(PPH)の現状
①早期審査(AEP)の現状
早期審査の請求件数について、2021年は、577件で、2020年の494件に比べて16.8%増加した。その中、事由1(外国対応出願が既に外国の特許庁において実体審査を経て登録査定となったもの)を以て請求した件数が最も多く、352件あった。
また、請求人別から見ると、最も多いのは内国人の請求件数の159件であって、主に事由3(出願人が商業的実施を予定しているもの)を以て早期審査の請求を行い、一方、2位と3位はそれぞれ、ケイマン諸島と韓国であり、前年に比べて、日本からのAEPの請求件数は、トップ4から外れた。
更に、早期審査を利用した出願の2021年の一次審査通知までの期間は、早期審査の申請から平均2~3か月以内であり、査定までの期間は、平均5~7か月以内であり、早期審査を利用しない出願に比べ大幅に短縮できたことが分かる。
②高速審査(PPH)の現状
高速審査の請求件数について、2021年は934件であり、前年の1105件と比べて、15.4%と大幅に減少した。その中、上位2か国は、米国(380件、40.7%)、日本(379、40.6%)であり、前年の446件、490件と比べて、それぞれ14.8%、22.6%減少した。
また、高速審査を利用した出願の2021年の一次審査通知までの期間は、高速審査の申請から平均1.5~2か月であっり、査定までの期間は、平均4~4.5か月であり、早期審査の審査期間より短く、高速審査を利用しない出願に比べ大幅の短縮が実現されている。
(五)結論
以上のことから、2021年の台湾での専利出願件数は2020年と比べて、ほぼ変わらないが、特許出願の部分は、5.3%成長し、2014年からの最大値となった一方で、実用新案と意匠の出願件数は、減少傾向にある。また、出願人の国別から見ると、外国出願人の出願件数は、三種類の出願のいずれも、前年より成長しており、その中、特許出願について、日本からの出願件数はそれ程成長していないが、米国、中国、韓国、ドイツからの出願件数は全て10%以上成長した。一方、内国出願人の出願件数は、特許以外全て減少した。それは、日本以外の外国企業は、経済活動を再開し、経済状況もコロナ前の水準まで回復しているからと思われる。
また、審査の実績について、近年、台湾知財局は、審査の質向上を目指した結果、特許拒絶査定の件数が大幅に増加し、再審査の請求件数もそれに応じて増加した。一方、審査期間について、特許初審査と再審査は共に、査定までの期間が平均14ヶ月以内であり、特許初審査と再審査の一次審査通知までの期間もそれぞれ平均9ヶ月、11ヶ月以内であることから、審査の迅速化が着実に進んでいることが分かる。
一方、無効審判及び行政救済について、2021年における無効審判請求件数は、438件であり、6.2%減少したが、訴願件数、行政訴訟の出訴件数は全て増加した。また、無効審判の請求成立率や、訴願の取消決定の割合は、前年とほぼ同様であったが、行政訴訟の審決取消率は前年と比べて、12%と顕著に低減した。これから見ると、特許権者にとって、行政救済により特許権を維持することは難しくなっていることが分かる。
さらに、早期の権利化について、AEPやPPHを利用すると、審査期間が大幅に短縮されるので、審査の迅速化を求める出願人にとって有効な手段であると言える。
※詳細については、ipdept@taie.com.twまでお問い合わせ下さい。
参考資料:台湾知的財産局年次報告書(2021年版)