商標法第23条第1項第13号においては、「使用に係る指定商品又はサービスが、同一又は類似する登録商標、又は先の出願によって登録を求めている商標と同一又は類似しており、そのために、関係消費者に混同を生じさせる虞があるものは登録を受けることができない」と規定されている。しかしながら、両商標が、類似していることを判断する際に、商標を、全体的に観察或いは部分的に観察を行うかは、審査官によって個人差がある。
それに関連し、以下においては、特許庁により、商標及び指定商品が先願登録商標に類似するとの判断が下され、それに対し、拒絶査定を受けた商標出願人が経済部に訴願を提起したが、該訴願が棄却されたことから、更に商標出願人が知的財産裁判所へ訴訟を提起し、これに対し、知的財産裁判所が「係争商標の登録可否については、更なる審査によって判断すべきである」との審決を下した案例について説明する。
【係争商標】 商標名:OCEAN NUTRITION CANADA & Design 台湾商標出願番号:96039652 出願日:2007年8月20日 商品の区分:第5類 指定商品:機能性食品添加物、天然の海洋有機物より抽出した栄養添加物、栄養補充品、魚類蛋白質、海藻、魚類軟骨或いはさめ軟骨及び貝類のエキスでできたカプセル、カプセル・錠・粉末・液体又はスプレーの栄養補充品。 | |
【引用商標Ⅰ】 商標名:OCEAN 及び Living water 台湾商標登録番号:1160587 登録年月日:2005年7月1日 出願年月日:2004年10月27日商品の区分:第五類 指定商品:鉱物質栄養補充品、カルシウム栄養補充品、栄養補充品。 | |
【引用商標Ⅱ】 商標名:OCEANA 及び図 台湾商標登録番号:1177054 登録年月日:2005年10月16日 出願年月日:2005年1月14日 商品の区分:第五類 指定商品:甲殻質カプセル、ヘアートニック、にきび治療用薬剤、血液代用剤、大蒜油丸、肝油ドロップ、鰻髄油丸、鮭油、さめ軟骨ゼラチン製剤、さめ軟骨粉、肝油カプセル、さめ油カプセル、スピルリナ粉、スピルリナ錠、スピルリナエキス、緑藻粉、緑藻錠。 | |
【引用商標Ⅲ】 商標名:御醫漢方 SINO-MED 及び図 台湾商標登録番号:1257931 登録年月日:2007年4月16日 出願年月日:2006年3月3日 商品の区分:第五類 指定商品:漢方薬、西洋薬、栄養補充品、医療用栄養補助剤(錠)(カプセル)、医療用茶、乳幼児用粉乳、ベビーフード、外皮用薬剤材料、動物用薬品、生理用ナプキン、コンタクトレンズ用清潔液、空気浄化製剤、失禁用おしめ。 |
事件の概要
カナダの栄養保健食品社である株式会社グローバルニュートリショングループは、世界の多くの国で既に登録されている商標である「OCEAN NUTRITION CANADA」をもって2007年8月20日に台湾特許庁に商標出願を行ったが、2008年7月25日に拒絶査定を受けた。この査定に対して、株式会社グローバルニュートリショングループは、同年8月27日に経済部の訴願委員会に対して拒絶査定が不服として訴願を提起したが、経済部は2008年12月19日に「本件審判請求は成り立たない」との審決を下した。そのことから、原告株式会社グローバルニュートリショングループは、2009年7月2日に知的財産裁判所に行政訴訟を提起した。それに対して知的財産裁判所は、「係争商標は、商標法第23条第1項第13号に該当しないので、台湾特許庁は、「OCEAN NUTRITION CANADA」との商標を、再審すべきである」とする審決を下した。
審査官の拒絶理由
審査官は、係争商標が引用商標Ⅰ~Ⅲの商標外観及び指定商品に類似していると判断した。
その内、係争商標と引用商標Ⅰとの類似点について審査官は、係争商標と引用商標Ⅰとは共に、「OCEAN」との英文字が含まれると共に、係争商標においては、「OCEAN」の頭文字「O」がややデザインされているが、それはアルファベットの「O」と識別できることから、両商標は類似するものと認定した。
一方、係争商標と引用商標Ⅱとの類似点について審査官は、係争商標と引用商標Ⅱとの外観上においては、両商標の頭文字「O」が似たような円弧状にデザイン化されると共に、両商標の語尾は共に、「CEAN」を有することから、類似するものと認定した。
又、係争商標と引用商標Ⅲとの類似点について審査官は、係争商標と引用商標Ⅲとの図形のデザインが類似していることから、消費者が誤認混同する虞があると認定した。
このように、審査官は、係争商標と前記3件の引用商標とはそれぞれ、文字或いは図形の部分が類似していることから、拒絶査定とした。更に、係争商標と引用商標Ⅰ~Ⅲとの指定商品を比較すると、その機能及び用途はほぼ同様であることから、これらの指定商品は、同一の生産者又は販売経路が同様であると関係消費者に誤認される虞があるので、一般社会通念上、係争商標と引用商標との間に何らかの関連性があると判断される虞がある。尚、台湾特許庁は、係争商標が著名商標であるか否かは、本件審判の結果に影響を及ぼすものではないと指摘した。
知的財産裁判所の判決
知的財産裁判所は、商標の類否判定について、「部分的観察のみでは、両商標が類似しているとの判断要素を満たさないことから、本件商標の登録について、特許庁により、再度審査すべきである」との判決を下した。
知的財産裁判所は、経済部に、係争商標と引用商標Ⅰとが、類似すると判断された「OCEAN」との文字及びその「O」のデザインが、要部観察のみに過ぎず、全体観察を行わなかったと共に、両商標共に含まれている「OCEAN」は識別力が弱い、且つ、指定商品が同一または類似していることにより、消費者が混同誤認のおそれがあると判断したのは、不適切であると判断し、又、係争商標と引用商標Ⅱとは、英文字の長さや図形の配置に差異が見られることから、単にデザイン化された頭文字「O」が類似しているだけでは、両商標が類似しているとは言い難いと共に、当該会社は既に2007年10月26日に解散しているので、係争商標の登録により、係る消費者に混同誤認が生じる虞はないと判断した。
更に、係争商標と引用商標Ⅲとの図形は類似しているものの、全体的に観察を行うと、引用商標Ⅲには中国語が使用されると共に、「SINO-MED」とは、識別力の高い独創的な文字であることから、両商標の類似性は非常に低いものと考えられるので、審査時に、商標全体の外観、称呼及び観念の類似性を考慮せずに、部分的観察のみで混同の虞があると判断したのは不適切であると判断した。
その上で、知的財産裁判所は、「原告は、係争商標に含む指定商品の成分、性質、機能又は産地についての記述説明に関して独占権の有無を主張していないので、本件商標に対する、登録査定或いは拒絶査定の審査については改めて行う必要がある」と判断した。故に、原告に対する経済部の元審決は、理由が不十分であると判断し、却下すべきであるとの審決を下した。