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BY 編集部
一、前書き
改正中国専利法は、2021年6月1日に正式に施行されていましたが、専利法実施細則(以下、実施細則という)及び専利審査指南(以下、審査指南という)の改正は、草案のままでした。ようやく、2023年12月21日に、改正実施細則及び改正審査指南が公布され、いずれも2024年1月20日に施行されています。
今回の改正は、中国出願戦略に大きな影響をもたらす重大な改正が多数含まれていますので、以下、その改正内容の概要を紹介します。
二、実施細則の改正概要
(一)実用新案の初歩審査で創造性を審査することに(実施細則第50条)
過去では、実用新案の初歩審査において、明らかに新規性を有しないかどうかのみが審査されていますが、改正後、明らかに創造性を有していないかどうかも審査されることになりました。
従来と最も大きな相違は、改正後、明らかに創造性を有しないことを指摘するために、複数の引例を援用することができるようになりました。将来、実用新案が初歩審査において拒絶理由を受け取る確率が高くなることを予測できるでしょう。
(二)意匠の初歩審査で創作非容易性を審査することに(実施細則第50条)
意匠も上記(一)と同様に、過去では、明らかに新規性を有しないかのみ審査されていますが、改正後、明らかに創作非容易性を有しないかも審査されることになりました。
(三)15日郵送猶予期間が廃止に(実施細則第4条)
これは、今回の改正内容のうち、実務面に大きな影響を与える改正点と言えると考えます。
即ち、2024年1月20日以降、電子形式にて発行された庁通知(例えば、審査意見通知や拒絶査定など)に対する応答期限については、15日間の郵送猶予期間を加算しなくなります。それに対して、書類の送付方法として「郵送」、「直接交付」である場合、依然として15日間の郵送猶予期間を加算できます。
本条文の内容をより詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。
(四)特許又は実用新案出願において、請求の範囲、明細書の一部が欠落し或いは誤提出されたが、国際優先権を主張した場合、提出日から2か月以内もしくは指定期間内に「援用による補充」を行うことにより、最初の出願日を保留することができる(実施細則第45条)
実施細則第45条の内容に基づけば、「請求の範囲又は明細書の一部の内容が欠落している」、「請求の範囲又は明細書の全体が誤提出されている」、「請求の範囲又は明細書の一部の内容が誤提出されている」との3つのパターンを指していると考えられます。具体的に説明しますと、下表のように示します。
(五)優先権期限が徒過した場合、優先権回復の請求が可能に(実施細則第36条)
國際又は国内優先権の主張について、優先権の主張可能期間(12ヶ月)を過ぎた場合、出願人が正当な理由をもっていれば、期間の満了日から2ヶ月以内に、優先権回復を請求することができるようになりました。
なお、この制度は特許又は実用新案出願のみに適用され、意匠に適用されません。また、審査指南には、「正当な理由は如何なるものか」について明確に説明されていませんので、将来、実務上「正当な理由」がどのように認定されるかについて、注目していく必要があると考えます。
(六)優先権の追記・訂正が可能に(実施細則第37条)
改正後の実施細則第37条では、特許又は実用新案出願の出願人は優先権を主張をした場合、優先日から16ヶ月以内又は出願日から4ヶ月以内に、願書において優先権主張の追加又は訂正を請求することができると規定されています。
ただし、留意すべき点は、「36条に規定の優先権回復請求」、「37条に規定の優先権の追記・訂正」のいずれも、「45条に規定の国際優先権援用による補充」の規定に適用できません。更に、「36条に規定の優先権回復請求」の規定も、「37条に規定の優先権の追記・訂正」の規定に適用できません。即ち、36条、37条、45条の規定は、いずれか一つの使用しか認められなく、併用することはできません。
(七)意匠出願は国内優先権の主張が可能に(実施細則第35条)
今回の専利法改正では、意匠出願が国内優先権を主張することが可能になったと緩和されています(専利法29条)。そして、実施細則第35条では更に、意匠出願において、意匠出願に基づく国内優先権主張の他に、特許又は実用新案出願に基づく国内優先権主張も可能になりました。なお、この場合、優先権主張の基礎となる特許又は実用新案出願は、取り下げられたものと見なすことになりません。
(八)信義則関連規定の明文化(実施細則第11条、50条、59条、69条、100条)
専利法の改正後、第20条に「専利出願と専利権の行使は信義誠実の原則を遵守しなければならない」が規定されることになっています。この条文に合わせて、実施細則第11条には、「出願は、真正な創作活動に基づくべきである」旨が規定され、第50、59条には、審査官が方式審査・実体審査の段階にて信義則違反の事情があるかについて判断すべき旨が規定され、また、第69条には、信義則違反を無効理由に追加した旨が規定されています。
更に、第100条には、上記条文に違反した場合を10万元以下の罰則の対象とした旨が規定されています。
(九)復審における職権審査事由の追加(実施細則第67条)
改正後の第67条には、「国務院専利行政部門は復審を行った後、復審請求が専利法と本細則の関係規定を満たしていない、又は、専利出願に専利法および本細則の関連規定に明らかに違反するその他の状況があると認定した場合、復審請求人に、指定の期限内に意見を陳述するよう要求しなければならない」旨(追加部分に下線を付けた)が規定され、即ち、復審における職権審査事由が新たに追加されています。また、改正後の審査指南における職権審査に関連する内容において、職権審査対象として、新たに「信義則違反」事由が追加されていますので、即ち、ここの「…明らかに違反するその他の状況」というのは、「信義則違反」の有無に対する審査を意味していると考えます。
(十)部分意匠の具体的な規定(実施細則第30条、31条)
部分意匠制度の導入は、今回専利法改正における1つの大きな変革と言えます。ただし、専利法には、部分意匠の詳細について規定されていません。従いまして、今回の改正後の細則における、30条には、「部分意匠を出願する際に、製品全体の図面を提出するとともに、破線と実線の組み合わせ又はその他の方法で意匠登録を受けようとする部分を表示しなければならない」旨、31条には、「製品全体の図面において破線と実線の組み合わせで意匠登録を受けようとする部分を表示した場合を除き、意匠の簡単な説明の欄に、意匠登録を受けようとする部分を明確に記載しなければならない」旨など、部分意匠に関する具体的な内容が規定されることになりました。
(十一)新規性喪失の例外適用要件における、学術会議又は技術会議の認定条件の緩和(実施細則第33条)
新規性喪失の例外事由のうち、学術会議又は技術会議における発表については、従来、「国務院の関係主管部門又は全国的な学術団体が主催する学術会議又は技術会議」に限られていましたが、改正後、上記に加え、「国務院の関係主管部門に承認された国際組織が主催する学術会議又は技術会議」でも、例外事由の申請が可能になりました。ただし、このような会議の詳細について、今のところ規定されていません。
(十二)不合理な遅延による専利権の存続期間の補償に関する規定(実施細則第77~79条)
この規定は、今回の専利法の改正により新設されたものであり、具体的には、第77条には、「該補償を請求する期間は、専利権付与の公告日から3か月以内である」旨、第78条には、補償日数の計算方法(補償日数=「発明の出願日から4年が経過し、かつ実体審査の請求日から3年が経過した日から専利権付与の公告日まで」の日数-(「合理的な遅延の日数」+「出願人による不合理な遅延の日数」))が規定されています。また、第78条及び第79条には、それぞれ「合理的な遅延」及び「出願人による不合理な遅延」について規定されています。
(十三)新薬の薬事承認にかかる日数の補償についての専利権の存続期間の補償に関する規定(実施細則第80~82条)
この規定も、今回の専利法の改正で新設された制度でありますが、具体的には、第80条には、「新薬に関する発明専利とは、所定の要件を満たした新薬に関する物の専利、製造方法の専利又は医薬用途専利である」ことが規定されています。
第81条には、「該補償を請求する期間は、中国において該新薬の薬事承認を受けた日から3か月以内である」ことが規定され、かつ「1つの新薬に複数の専利が存在する場合、1件の専利のみについて補償を請求することができる」こと、及び「1件の専利に複数の新薬が関連している場合、1つの新薬のみにより補償を請求することができる」ことが規定されています。第82条には、「該補償期間の計算方法は、専利の出願日から新薬の中国において薬事承認を受けた日までの日数-5年である」ことが規定されていますので、第82条の規定によれば、専利の出願日から5年以内に中国において新薬の薬事承認を受けた場合、該補償を請求することができません。また、該補償期間の計算は、専利権付与の公告日に関連しないことにご留意ください。
最後に、上記(十二)及び(十三)について、第84条には、「国務院専利行政部門は、補償要件を満たしていないと判断した場合は、期間の補償を認めない旨の決定を行うとともに、この請求を提出した専利権者に通知しなければならない」ことが言及され、審査指南には、「国務院専利行政部門は、意見陳述及び/又は出願書類を補正する機会を少なくとも1回、出願人に供与しなければならない」ことが言及されています。
(十四)開放許諾制度に関する規定(実施細則第85~88条)
開放許諾は、今回の専利法の改正で新設された制度であり、専利法には、開放許諾に関わる内容がある程度規定されていますが、今回の実施細則の改正には、一部の詳細が更に明記されています。
第85条には、「開放許諾宣言は、専利が公告されなければ、提出することができない」ことや、宣言に記載しなければならない事項が規定されています。第86条には、開放許諾が実施されることができない事情(例えば、専利権が独占的又は排他的ライセンスの有効期間内)が規定されています。第87条には、「開放許諾により実施許諾契約を締結した場合、専利権者(ライセンサー)及び実施権者(ライセンシー)の何れか一方は、国務院専利行政部門に届出を行わなければならない」ことが規定されています。
(十五)ハーグ国際意匠出願に関する規定の明記(実施細則第136~144条)
ハーグ国際意匠出願制度は、専利法改正における1つの大きな改革であるが、専利法に記載されていません。そのため、今回の改正後の実施細則には、それに関連する規定が記載されています。なお、ハーグ国際意匠出願に関する詳細は、審査指南に新設された「第六部分」をご参照ください。
(十六)利害関係者も専利権評価報告書の請求が可能(実施細則第66条)
改正前の実施細則には、「専利権者又は利害関係者は専利権評価報告書の作成を請求することができる」ことのみが規定されているのに対し、改正後の実施細則第62条には、「被疑侵害者も専利権評価報告書の作成を請求することができる」ことが明記されることになっています。
(十七)専利が公告される前に、専利権登録の手続を行う際、専利権評価報告書の請求が可能(実施細則第62、63条)
改正前の実施細則には、「実用新案専利権又は意匠専利権の付与決定が公告された後、専利権評価報告書の作成を請求することができる」ことが規定されているのに対して、改正後の実施細則第62条には、「出願人は、専利権登録の手続を行う際、専利権評価報告書の作成を請求する(場合①)ことができる」ことが規定されますので、専利権評価報告書の作成を請求する時点は緩和されたと言えます。
なお、実施細則第63条には、「上記場合①、国務院専利行政部門は、専利権付与の公告日から2か月以内で専利権評価報告書を作成しなければならない」ことが規定されています。
(十八)遅延審査制度の新設(実施細則第56条)
改正後の実施細則第56条では、遅延審査制度が新設されました。又、審査指南には、以下の内容が更に規定されています。
発明:実体審査の請求と同時に提出すべきであり、遅延期間は1年、2年、又は3年とすることができます。
実用新案:実用新案の出願と同時に提出すべきであり、遅延期間は1年とすることができます。
意匠:意匠の出願と同時に提出すべきであり、遅延期間は月を単位とし、最長36か月とすることができます。
(十九)全国に重大な影響を与える専利侵害紛争の定義の明記(実施細則第70、96条)
改正後の専利法第70条第1項には、「国務院専利行政部門は、専利権者又は利害関係者の請求に応じて、全国に重大な影響を与える専利侵害紛争を処理することができる」ことが新設されました。又、その関連条文として、実施細則第96条には、係る専利侵害紛争は、重大な公益に関わること、業界の発展に重大な影響を及ぼすこと、及び省、自治区、直轄市を跨る重大な事件であること等を含む旨が規定されています。
(二十)専利詐称製品であることを知らないで販売する場合、罰金の処罰が免除されない(実施細則第101条)
改正後の実施細則第101条第3項には、元規定における「罰金の処罰が免除される」との文字が削除されていますので、将来専利詐称製品に対する法律の執行は、より厳しくなっています。
(二十一)専利出願者、専利権者の氏名又は名称を変更する時、その証明書類は必要な時に提出すればよい(実施細則第146条)
改正前の実施細則には、「発明者の氏名、専利出願人と専利権者の氏名又は名称、国籍及び住所、専利代理機構の名称、住所及び代理人の氏名を変更する場合は、変更理由の証明書類を添えて、国務院専利行政部門で書誌的事項の変更手続を行わければならない」ことが規定されていますが、改正後の実施細則第146条において、上記規定の最後の文は「必要な時、変更理由の証明書類を添えて、国務院専利行政部門で書誌的事項の変更手続を行えばよい」ことに改正されました。
(二十二)分割出願の提出時に、親出願書類の副本及びその優先権証明書の副本を提出する必要がない(実施細則第49条)
改正前の実施細則には、「分割出願の提出時、出願人は親出願書類の副本を提出しなければならない。親出願が優先権を主張した場合、合わせて親出願の優先権書類の副本を提出しなければならない」ことが規定されていますが、改正後の実施細則第49条には、前記内容が削除されています。
(二十三)要約図面を個別に提出する必要がなく、添付図面から指定すればよい(実施細則第26条)
添付図面を持つ専利出願について、改正前の実施細則には、「添付図面に加えて、要約図面を個別に提出しなければならない」ことが規定されていますが、改正後の実施細則第26条には、「出願書において、添付図面から要約図面を指定すればよい」ことが規定されています。
(二十四)中国に常駐住所又は営業場所を持たない外国人、外国企業は、代理人を通さず費用を自ら納付することができる(実施細則第18条)
改正後の実施細則第18条には、「中国に常駐住所又は営業場所を持たない外国人、外国企業又はその他外国組織は、親出願の優先権証明書の副本の提出、費用納付の手続を自ら行うことができる」ことが新設されました。
(二十五)各費用の納付が困難な場合、延期納付ができなくなり、減額納付のみが可能(実施細則第117条)
改正前の実施細則には、「出願人または専利権者が本細則で規定された各費用の納付が困難な場合、減額または延期納付の請求を提出することができる」ことが規定されていますが、改正後の実施細則第117条には、「延期納付」が削除され、「減額納付」のみが残されました。
(二十六)事業単位と約定がない場合、職務発明者が専利権を取得した時の奨励金を高める(実施細則第93条)
改正前の実施細則には、「発明専利一件あたりの奨励金は3,000元を下回ってはならず、実用新案専利又は意匠専利一件あたりの奨励金は1,000元を下回ってはならない」ことが規定されていますが、改正後の実施細則第93条には、「発明専利一件あたりの奨励金は4,000元を下回ってはならず、実用新案専利又は意匠専利一件あたりの奨励金は1,500元を下回ってはならない」ことが規定され、これにより、イノベーションによる利益を合理的に分けることができます。
三、結語
今回の実施細則における一部の改正内容は実務へ大きな影響を与える可能性がありますので、それに対して早めに対応しておく必要があると考えます。
※ご不明点がございましたら、お気軽にipdept@taie.com.twまでお問い合わせ下さい。