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BY 潘映彤
一、前言
近年では、人工知能、ビッグデータ等の技術の進展に伴い、各分野におけるコンピュータ・ソフトウエアに関連する発明の出願件数も増え、産業の変化に対応するために、台湾知的財産局は、今年(2021年)の6月9日に専利審査基準第二篇第12章における「コンピュータ・ソフトウエア関連発明」の改訂版を公告し、同7月1日から発効すると公表した。以下にて第12章に対する改訂の主なポイントを列記する。
1.発明の定義(適格性)の判断基準の明確化
2.総則と相互に一致するように進歩性に関する内容の改訂
3.人工知能関連審査事項と事例の新設
本文は、その内の発明の定義の判断基準について紹介する。
二、発明の定義に関連する改訂内容
今回、原審査基準における、欧州特許庁に採用される「更なる技術効果」及び米国Alice案の適格性の判断要件から派生される「コンピューターを簡単に利用する」との判断原則を削除し、発明の定義の判断ステップ(以下の図を参照)を明確にしたと共に、各ステップにおいて実例の説明を補充することにより、発明の定義を満たすか否かをより明瞭にした。
上記の判断の流れ図によれば、コンピュータソフトウエアが発明の定義を満たすか否かについては、請求項に記載された発明全体を判断の対象とし、ステップ(1)では、コンピュータソフトウエア関連発明が第3.3節の発明の定義を明らかに満たす又は明らかに満たさない態様であるかを判断し、判断できなければ、ステップ(2)に進み、コンピュータソフトウエアが「コンピュータソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を利用して具体的に実現されている」との要件を満たすか否かを判断する。
改訂後の審査基準の第3.4節における、「コンピュータソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を利用して具体的に実現されている」ことは、コンピュータソフトウェアとハードウェア資源との協働によって、情報処理の目的に応じて特定の情報処理装置又は方法を構築することをいう。
審査を担当する者は出願時の通常の知識を参酌して、請求項に記載されたコンピュータソフトウェアとハードウェア資源とが協働した具体的な技術手段又はステップについて、情報処理の目的に応じて特定の情報処理又は計算を実現しているかどうかを判断し、それによって、コンピュータソフトウェア関連発明が前述した要件を満たしているものであるか否か、「自然法則を利用した技術思想の創作」との発明の定義に該当するものであるか否かを認定すべきである。
それに加え、審査基準では、更に以下のように説明している。コンピュータソフトウェアとハードウェア資源とが協働した具体的な技術手段又は具体的なステップは、請求項において特定のハードウェア資源が記載されることを必要とするものではない。請求項において特定の情報処理技術手段が記載されている場合、たとえ請求項においてハードウェア資源であるコンピュータしか記載されていなく、または、ハードウェア資源が完全に記載されていなくても、出願時の通常の知識を参酌して、コンピュータが通常具備するCPU、メモリ等の一般的なハードウェア資源とコンピュータソフトウェアとの協働によって、当該特定の情報処理技術手段が実現できることを知り得るときは、前述要件を満たすと認定すべきである。これに対して、もし請求項にハードウェア資源が記載されているにもかかわらず、情報処理の目的に応じて特定の情報処理又は計算を実現するために、コンピュータソフトウェアとハードウェア資源とが協働した具体的な技術手段又はステップが記載されていない場合は、前述要件を満たさない。
三、実例の説明
ステップ(2)における「コンピュータソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を利用して具体的に実現されている」との要件の判断について、審査基準には、それぞれ事例及び反例が挙げられている。
例1 |
[請求項]
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審査基準の記載によれば、例1の請求項に記載の発明は、入力ユニット、処理ユニット及び表示ユニット等のハードウェア資源を備え、コンピュータソフトウェアの情報処理によって要約生成の機能を実現しているが、コンピュータソフトウェアとハードウェア資源とが協働した具体的な技術手段又はステップが記載されていないことから、発明の定義を満たしていない。
例2 |
[請求項]
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審査基準の記載によれば、例2の請求項に記載の発明は、プリアンブルに「コンピュータ」のみが記載され、他のハードウェア資源は記載されていないが、対象の名称である「コンピュータプログラムプロダクト」及び「コンピュータからロードした…」等の内容、並びに出願時の通常の知識に基づけば、コンピュータが通常具備するハードウェア資源とコンピュータソフトウェアとの協働によって、請求項に記載された要約を生成するための特定の情報処理又は計算の技術手段が実現されることが分かり、且つ請求項において情報処理の目的に応じた具体的な情報処理ステップ又は計算ステップが記載されていることから、発明の定義を満たしている。
特に、審査基準においては、同一又は類似の目的(要約の生成)を有する例1、例2を挙げ、更に詳しく例1が発明の定義を満たしていない原因、及び例2が発明の定義を満たしている原因を説明しているので、審査委員と出願人に発明の定義の判断標準を理解させることができる。
四、結論
わが国の専利審査基準における「コンピュータ・ソフトウエア関連発明」は、1988年に制定されて以来、2008年と2014年に改訂されており、今の度の改訂は、前の2回の改訂より幅が大きい。新たに改訂されたコンピュータ・ソフトウエア関連発明の審査基準では、更なる技術効果、コンピュータの簡単な利用などの関連の内容の判断標準を削除することにより、確かに、発明の定義に進歩性の概念が加入されたために生じる発明の定義と進歩性との判断手順の混乱が改善され、且つ、明確な実例の説明を補充することにより、発明の定義の判断基準をより明確にさせたことから、発明の定義を満たすか否かに対する判断の客観性が向上すると共に、請求項に記載すべき内容及び方式がより明瞭になった。一方、注意すべきことは、請求項にハードウェア資源のみを簡単に記載しただけでは、コンピュータソフトウェアとハードウェア資源との協働の具体的な技術手段又は具体的なステップに該当するとは言えなく、「コンピュータソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を利用して具体的に実現されている」との要件を満たすために、ハードウェア資源とコンピュータソフトウェアとの協働の具体的な技術手段を開示する必要がある。
※詳細については、ipdept@taie.com.twまでお問い合わせ下さい。