2021年の世界知的所有権の日のテーマは、「知的財産(IP)と中小企業:あなたのアイデアで新しい事業を(IP & SMEs: Taking your ideas to market)」であり、新型コロナウイルスの猛威に振られるグローバル市場にとって、特に有意義である。世界銀行(The World Bank)のウェブサイトに掲載されるデータによれば、世界の企業のうち、約90%の企業は中小企業であり、世界中の労働者のうち、約50%の労働者は中小企業に雇われており、新興国においては、中小企業がそのGDPの40%まで占めることもあり、世界経済、個別の国への中小企業の影響力は、我々の想像をはるかに超えている。わが国を例に挙げると、経済復興の追求を最優先課題とした2021年では、半導体産業のおかげで超景気の循環に入り、将来の成長が見込まられるハイテク産業以外、我が国の企業全体の97.65%を占め、全国の就職人数の78.73%を占める中小企業がこの逆境を乗り越えられるかどうかは、一般市民が経済の復興を実感できるかどうかの鍵である。
しかしながら、中小企業の知的財産権の出願総件数は、大手企業のそれに及ばない。我が国では、知的財産局の年報によれば、2020年の大手企業の専利出願数は10,794件であるのに対し、中小企業の専利出願数は3,334件であり、我が国の企業全体の97.65%を占めている中小企業にしては、その件数が多いとは言えない。良い面を見ると、専利出願件数の成長率によれば、中小企業の成長率は、2018年~2020年の間に夫々8%、7%、17%であるのに対し、大手企業の成長率は、2%、6%、-4%であるので、大手企業の専利出願件数は2020年の新型コロナウイルスによる影響を大きく受けていることが見受けられる一方、中小企業の専利出願件数は、コロナ禍でも右肩上がりの成長を見せた。
なお、欧州連合知的財産庁(EUIPO)の研究報告「High-growth firms and intellectual property rights, IPR profile of high-potential SMEs in Europe, May 2019」によると、知的財産権の出願を行った中小企業のうち、出願した後に成長期を迎えた企業は21%もあり、その成長率は約10%で、20%以上に達するものもある。明らかに、知的財産権を持った中小企業は、そのアイデアを商業化するチャンスが多く、それにより、企業の価値が向上し、クライアントに新しい且つ良い商品やサービスを提供することも可能になる。
実際、各知的財産権の関連組織は、中小企業のイノベーション環境に対する重要性について既に気付き始めている。なぜなら、中小企業の成長は、国の経済の長期的な成長に関わっているとともに、市場の競争が激化し且つ各種類の製品技術やサービスが日進月歩で発展を続けている現在は、特に研究開発・イノベーションが中小企業の持続する成長の重要なポイントである。世界知的所有権機関(WIPO)と欧州特許庁(EPO)は、いずれもそのウェブサイトに「中小企業コーナー<https://www.wipo.int/sme/en/>」を設けており、その目的は、中小企業に知的財産権を認識させ、知的財産権がビジネスにもたらすメリットとは何か、知的財産権が如何にして業務開拓の助けになるかを理解させることにある。また、我が国の知的財産局のウェブサイトにも同様に、「中小企業コーナー< https://pcm.tipo.gov.tw/SME/index.html>」を設けており、そこには、知的財産権の基本概念及びよくある問題の関連知識などの内容が掲載されている。
知的財産権は、富裕層限定のゲームでもなければ、大手企業しか使えないツールでもない。中小企業にとって肝心なところは、自分の実力を向上させ続けるほか、日々の研究開発・イノベーションやブランドマネジメントを知的財産権に転換できれば、売り上げの向上、他社との連携、或いは投資者の興味を引くことを実現するための武器になる可能性もある。