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出版品(特実意)
請求項用語について明細書に明確な定義がない場合、 図面に基づく解釈の原則 (109年民専上字第27号判決) (2023/07/31)

編集部

一、 前書き

専利法第58条第4項には、「発明特許権の範囲は、特許請求の範囲を基準とし、特許請求の範囲の解釈時には、明細書及び図面を参酌することができる」との規定を有すると共に、専利侵害判断要点には、クレームの解釈について、「クレームにおける用語については、若し明細書に明確な定義又は説明が別途開示されている場合、その定義又は説明を考慮しなければならない。クレームの記載について疑義があり明らかにする必要がある場合、明細書、特許請求の範囲、図面及び包袋等の内的証拠を考慮しなければならない」との規定を有することから、クレームの用語に対して疑義がある場合、一般的に、まずは明細書において当該用語に関する定義の有無を確認し、次に明細書に記載された技術内容に基づいて当該用語の意義を推論すると共に、図面の内容を補助的に参照することにより、原初の文字記載に基づいて適切に当該用語の意義を解釈する。図面の内容を補助的な役割とする理由は、図面に基づいてクレームの用語を解釈すると、クレームに記載されていない内容をクレームに読み込むように減縮解釈しかねなく、読み込み禁止の原則に違反することになる問題を回避するためである。

図面に基づくクレーム解釈に関しては、以下に示す知的財産及び商業裁判所の109年民専上字第27号判決書に、「図面に開示された内容に基づき、明細書に明確な技術的意義が記載されていない用語を解釈する」旨の見解が開示されたので、参考に値する。

二、 案件の紹介

本判決において、係争特許のクレーム1には、「第1及び第2ブレーキ表面のうち、少なくとも一方から径方向においてオフセットして配置された冷却フィン」との技術特徴を有し、また、被控訴人である特許権者は訴訟の過程において、「クレーム1における『径方向においてオフセットして配置される』との用語は、『直径方向においてずれて配置される』と解釈すべきであることから、『冷却フィンとブレーキ表面とが重なる』との実施態様が当該用語の解釈に含まれない」と主張した。この主張に対して、控訴人は、「この解釈に基づけば、控訴人製品が係争特許のクレーム1に対して文言侵害にならない」ことを主張した。故に、「径方向にオフセットして配置される」との用語を如何に解釈するかは、本判決を左右する重要な争点となる。

本判決においては、裁判所が前記特許請求の範囲の解釈原則に基づいて、クレームの解釈に際して係争特許の明細書及び図面を参酌した。しかしながら、係争特許の明細書における「径方向にオフセットして配置される」との用語に関する説明は、「図面に示す実施例のように、冷却フィン24は第1ベース(ブレーキ)表面22c及び第2ベース(ブレーキ)表面22dから径方向にオフセットするように配置されている……好ましくは、図4から図6に示すように、フィン部分24aの全体は、自転車のディスクブレーキのロータ12の外部分22の第1ベース表面22cと第2ベース表面22dとの間に配置されている」ことのみであるので、裁判所は、前記説明に基づいて、「係争特許の図4、図5、及び図6に開示された構成は、何れも『径方向にオフセットして配置する』との定義を満たしている」との見解を表明した。

このように、裁判所は、係争特許の図4、図5、及び図6の開示内容に基づいて、冷却フィン(下記図面のオレンジ色でマークされた部分を参照)が「径方向においてオフセットして配置される」との技術的意義は、「冷却フィンが第1又は第2ブレーキ表面の少なくとも一つの内縁に接続される」実施態様(即ち、図4と図5)、又は、「冷却フィンの一部が、第1ブレーキ表面と第2ブレーキ表面との間に挟まれ、冷却フィンの他の部分が、第1又は第2ブレーキ表面の内縁に接続される」実施態様(即ち、図6)を含むと認定した。また、係争特許のクレーム1において、「冷却フィンの一部は、第1及び第2ブレーキ表面との間に挟まれるように配置されている」こと、又は「冷却フィンは、第1又は第2ブレーキ表面と重なるように配置されている」ことを否定するような記載を有しないことから、係争特許のクレーム1における「径方向においてオフセットして配置される」ことは、「冷却フィンの表面と第1又は第2ブレーキ表面の少なくとも一方が、ブレーキのロータの直径方向において部分的にずれている」と解釈すべきであると共に、「冷却フィンが直径方向において第1及び第2ブレーキ表面の何れとも重なっていない」と限定してはいけない。

上記説明によると、たとえ特許権者が「係争特許の冷却フィンは、係争特許の図6の実施態様を含まない」との主張を行ったとしても、裁判所は結果的にこの主張を採用せず、「『径方向においてオフセットして配置される』との文言に、『冷却フィンと第1又は第2ブレーキ表面とは部分的に重なる』との実施態様を含む」と認定した上で、控訴人製品が係争特許のクレーム1の文言範囲に含まれるものとした。

三、 結論

(一)特許出願前の段階では、取得しようとする特許請求の範囲に基づいて、明細書及び図面の内容を適切に編集すること

一般的に、クレームにおける、容易に疑義が生じる用語については、明細書に定義や詳しい説明を記載することにより、争議の発生時、明確に且つ迅速に該用語の技術的意義を明らかにすることができる。しかしながら、やや複雑な技術分野の場合、クレームにおける全ての用語について、詳しい説明を明細書に記載することは困難であり、また、明細書を作成する際に十分に明確と思われて記載された用語でも、権利行使の過程において争議を生じる可能性がある。故に、明細書及び図面において、少なくとも特許請求の範囲の独立クレームにおけるやや抽象的、又は上位概念の用語について、幾つかの実施例を記載した方がよく、それらの実施例は特許請求の範囲の解釈に際して役に立てる。例えば、本判決では、図4~図6を引用して「径方向においてオフセットして配置される」との用語を限定解釈している。

(二)特許権者が特許請求の範囲を解釈する際には、特許の有効性と特許侵害の対比結果との両方を同時に考慮すべきである

本判決において、もし、裁判所が特許権者の「径方向においてオフセットして配置される」文言に対する解釈を採用する場合、控訴人製品の権利侵害は成立しないことになり得る。よって、特許の有効性を維持するために特許請求の範囲を減縮的に解釈する場合、相手方の権利侵害は成立しないことにつながる可能性があり、逆に、控訴人の製品が係争特許の特許請求の範囲に含まれるように、特許請求の範囲を広く解釈する場合、クレームが進歩性や明確性等の特許要件を有しないことにより無効とされる可能性がある。従いまして、侵害有無と特許有効性の判断にあたっては、特許請求の範囲における技術特徴の意義を一貫して解釈するように慎重に対応する必要がある。

※詳細については、ipdept@taie.com.twまでお問い合わせ下さい。 

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