ホーム » 知財情報 » 出版品(特実意)
出版品(特実意)
意匠と先行技芸との類否判断においては、「全体対比」、「消費者の注意をひくか」、「比重」を考慮する/台湾 意匠権無効審判事件に係る判決 (2023/06/30)

編集部

 

一、事件の概要

[事件の経緯]

2017年08月10日

係争意匠出願

2018年01月18日

係争意匠公告

2020年05月22日

無効審判提起

2021年02月26日

審決(無効にならない)

2021年07月08日

訴願決定(処分を維持)

2022年03月30日

判決(無効にすべき)

[事件の内容]

原告の主張:

(1)係争意匠「ランプソケット」と証拠2「紫外線ランプベース」は近似する意匠であり、当業者であれば、証拠2における「ベースと円柱形チューブとの間が工字型である外観」、及び「4枚の花弁状の突起部の上部は小径凸座を有する外観」に基づいて、係争意匠における「ベースと円柱形チューブとの間が凸字型である外観」、及び「4枚の花弁状の突起部の上部は下から上へ縮径する階段状外観」を容易に想到することができ、また、消費者も実際に係争意匠と証拠2とは用途、機能が同一の物品であることを知り得ることから、全体的に対比すると、視覚的印象に対し誤認を生じさせることになるので、係争意匠は創作性を有しない。

(2)証拠2は、係争意匠と同一の視角から観察した場合、その円盤体と上層における4枚の花弁状の突起部が同一の直径を有する外観であり、また、その扁平状の短円柱体と中層の円盤体との間の段差構造が、それの全体外観に占める割合は極めて小さいことから、上記段差構造による全体的な視覚的印象に与える影響は無視できる。

(3)係争意匠における円柱体の上面の縁部に小さな円形の穴が設けられ、4枚の花弁状の突起部の頂部に小径凸座を有するとともに、4枚の花弁状の突起部及びチューブが合わせて呈した縮径する階段状の視覚的印象は、その全体の意匠に占める割合が極めて小さく、視覚的印象に明らかな影響がないことから、一般消費者が商品を選択または使用する時の視覚重点ではない。

被告の答弁:

(1)平面図から見ると、係争意匠は「四角い4枚の花弁状の突起部」、「底部の下層が扁平状の短円柱体で、上層が4枚の花弁状の突起部であり、これらは同一の直径とサイズを有するとともに、両者の高さの比率が約1:1」であり、その上層、下層の高さ及び直径は対照的で、全体的な視覚効果が完全で一貫している。また、証拠2は、「長方形の4枚の花弁状の突起部」を有するとともに、「中層の円盤体と上部の4枚の花弁状の突起部は直径が異なり、高さの比率が約1:4」であり、全体として段差をイメージさせる視覚効果を与えている。たとえ特定の視角から観察する場合、中層の円盤体と上層の4枚の花弁状の突起部が同じ直径とサイズであるように見えても、全体的な視覚効果は、ほとんどの視角において、中層の円盤体と上層の4枚の花弁状の突起部の直径が異なるように見え、段差状の視覚的印象を一層明確に与えている。

(2)係争意匠のベースは2層構造を呈し、下層の扁平状の短円柱体と上層の4枚の花弁状の突起部から構成されており、その斜視図及び正面図から見ると、該ベース全体と円柱状チューブとの間が「凸」の文字形状をしている。それに対して、証拠2のベースは3層構造を呈し、下層の扁平状の短円柱体と、中層の円盤体と、上層の4枚の花弁状の突起部とから構成されている。また、該ベースと円柱状チューブとの間に明確な段差のある形状が形成されているため、中層の円盤体の直径が大きく、下層の扁平状の短円柱体が小さい構成であるので、該ベース全体と円柱状チューブとの間は「工字型の凹型リング溝」の外観を呈することになり、これらの外観は証拠2のベースから、例えば、「その段差構造を無視する」または「ある層を削除する」などの簡単な変更を行ったとしても、係争意匠の全体的な外観の意匠を得ることはできないので、証拠2は、係争意匠が創作性を有しないことを証明できない。

裁判所の判断:

(1)係争意匠

(2)証拠2 

 

3)係争意匠の創作性

(3A)物品の対比結果:

同一

(3B)外観の対比結果:

主な外観特徴は、証拠2に開示されている。

証拠2のベースとランプソケットとの接続箇所には、縮径部が存在するが、全体として顕著ではなく、縮径部を削除するなどの軽微な改変により係争意匠の相違外観特徴を容易に完成できる。よって、係争意匠は証拠2に対して創作性を有しない。

4)被告の主張が認められない理由

(4A)証拠2と係争意匠との「斜視図」、「平面図」によると、両者ともに、ベースの最上層に4枚の花弁のような連続して湾曲した弧状の輪郭があり、各花弁の形状の前端から放電用の金属ピンがそれぞれ延出していることから、全体として明らかに同一の視覚効果を呈する。

(4B)出願する意匠は、関連する先行技芸における意匠の比率、位置、または数を変更することによってのみ構成されるものであり、両者の相違点は、先行技芸及び出願時の通常の知識を参照した簡単な方法に基づくものであり、さらに、該相違点では、該意匠の全体外観に独特の視覚効果を生じさせることができない場合、該意匠を、容易に想到できると認定すべきである。

(4C)意匠とは、視覚に訴える特定の創作物、すなわち、肉眼で認識・確認できる視覚効果(装飾的)を有する意匠でなければならず、保護対象は物品の外観の視覚的効果の表現である。また、創作性の審査原則によると、出願する意匠と先行技芸との相違点は、3次元空間または2次元空間を利用した形状、模様、色彩、例えば、基本的な幾何形状、伝統的な画像、または、公衆に広く知られた形状、模様など、従来技芸の外観を運用するものである場合、出願する意匠の全体的な外観に特異な視覚的効果を生じさせないものであるときは、容易に想到できると認定すべきである。

係争意匠と証拠2との差異(4枚の花弁、ベースの高さと直径との比率)は、比率の簡単な変更である。

二、まとめ

(1)一般消費者の注意を引く特徴は重要なポイントであり、意匠の創作性の判断に大きく影響する。
出願する意匠と先行技芸とを対比する際には、全体的な外観を対象とすべきであり、審査時に、一般消費者の注意を引きやすい特徴に比重を置くべきである。

(2)局部の相違は、全体的な視覚効果、創作性の判断に影響する可能性があるが、全体的な外観の対比に基づいて、容易に想到するかを判断すべきである。斬新な設計要素を呈していれば、顕著な視覚効果を有すると言える。

三、コメント

係争意匠と先行技芸との相違点の判断は、局部の特徴の対比ではなく、全体的な外観を対比対象とすべきである。ただし、各局部の特徴による注意の引きやすさ、各局部の特徴の機能または修飾の程度、及び対比可能な相違点の多さも考慮する必要がある。注意を引きやすく、修飾的特徴に属し、さらに、設計変更可能な特徴が限られているときに、該特徴は、対比、判断においての比重は相対的に高く、評価の結果に強く影響するので、意匠の創作性の判断は、上記判断の要点を把握した上で正確に対比する必要がある。

資料の出所:

知的財産局専利主題網、専利行政判決110年度行專訴第42号、2022年03月30日。
https://topic.tipo.gov.tw/patents-tw/cp-741-921063-c88a3-101.html
※詳細については、ipdept@taie.com.twまでお気軽にお問い合わせ下さい。

 

TOP