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出版品(特実意)
特許侵害訴訟における防御手段について台湾と中国との比較 (2023/04/28)

編集部

台湾知的財産裁判所は、2008年7月1日に設立してから約15年間が経過する中で、知的財産裁判所の民事第一審における特許に関する訴訟件数をみると、2022年Q4までの14年間で約1800件を超えている。また、本文において言及した特許侵害訴訟における、被疑侵害者の防御手段の一つとしては、特許無効の抗弁を行うことであり、且つ、知的財産裁判所の民事第一審の特許訴訟に関する統計データによると、2008年Q3から2022年Q4まで、特許無効の抗弁を提起する訴訟案件における、無効成立率は、約50.0%である。一方、その無効成立率が高い原因は、詳しくわからないが、おそらく、出願段階の実用新案に対する審査は形式審査であり、実体審査を行っていないことから、その専利権は相対的に不安定であるので、実用新案の専利権の侵害訴訟において、被疑侵害者は、特許無効の抗弁を行うと、その無効成立の傾向は高いためである。

知的財産裁判所の民事第一審の特許訴訟における特許無効の抗弁の成立率

 

前記表に示すような特許無効の成立率(50.0%)が高い点から見れば、特許侵害訴訟の被疑侵害者にとって、特許無効の抗弁を行うことは、防御手段の一つとして有益なことであると考える。

なお、台湾知的財産案件審理法第16条第1項には、「当事者が知的財産権に無効、取消すべき原因があることを主張又は抗弁したとき、裁判所はその主張又は抗弁についての理由の有無を自ら判断しなければならず、民事訴訟法、行政訴訟法、商標法、専利法(注:日本の特許法、実用新案法、意匠法三法に相当)、植物品種及び種苗法その他の法律上の訴訟手続停止に関する規定は適用されない」との規定を有することから、民事の侵害訴訟において、被疑侵害者が提出した、特許無効の抗弁に関する争点については、裁判所は判断する権力を有し、つまり、裁判所は、「民事の侵害訴訟の判決は、知的財産局の行政処分や、係る行政訴訟の審決を待つべきである」ことに制限されなく、訴訟を一時中止して訴訟の審理を遅延させる必要がない。また、当該規定の立法理由は、「専利権等の知的財産権は私権に属し、その特許の有効性に関する争点は私権の争いに属し、民事裁判所は民事訴訟で判断することができ、理論上は合理である。それに、知的財産裁判所の民事裁判官は知的財産権の有効性を判断する専門能力を有することから、訴訟審決のための、特許の有効性に関する判断は、行政訴訟の結果が出るまでにその判断を待つ必要がないので、立法院では、当該条文を制定し、また、知的財産訴訟を審理する民事裁判所は、係る訴訟において、知的財産権の取消や、無効の事由の有無に関する争点に対して、実質的な判断を行うと共に、『民事訴訟法、行政訴訟法、商標法、専利法、植物品種及び種苗法その他の法律上の訴訟手続停止に関する規定の適用』を排除することにより、紛争の一回解決を図り、訴訟の当事者の権利保護を素早く実現することができる」とのことである。

一方、上述のような特許無効に関する法的効力について、知的財産案件審理法第16条第2項には、「前項の情況につき、裁判所が取消すべき又は無効すべき理由があると認めたとき、知的財産権者は該民事訴訟において、相手方に権利を主張することができない」ことを規定しており、該規定からみると、裁判所は、専利権の取消や、無効にする原因を有するか否かを判断することができるが、自ら「特許を無効にする」ことを裁定することができなく、つまり、裁判所の前記判断は、当該訴訟の当事者のみにおいて法的拘束力を有することが分かる。また、専利権の取消や、無効について、前記第16条第2項に関する立法理由によると、知的財産に関する案件を審理する民事裁判所は、「特許を無効すべく原因を有する」と判断したとしても、「知的財産局からの行政処分において、特許無効とした」との絶対的効力の状況以外、民事裁判所は自ら「特許無効」と審決する権力を有しない。故に、専利権の取消や、無効か否かについては、無効審判のような行政手続きにおいて判断することにより、法的効力(第三者効)が生じる。

一方、中国の特許侵害に関する訴訟について、特許有効性の判断、及び特許侵害の判断は、「特許侵害に関する事件は、民事の権利侵害訴訟で処理し、専利権の確定に関する問題は、行政手続きを経て解決する」との制度により分かれて行い、そのことから、中国での特許侵害訴訟は台湾と異なり、つまり、訴訟において、被疑侵害者は特許の有効性を争う場合、特許無効の抗弁のような防御手段を行うことができず、中国知的財産局において無効審判を請求することにより、特許無効を主張することができる。また、特許に関する紛争を審理した人民法院は、専利権有無を判断する効力を有しないことから、民事訴訟の審理を一時中止し、専利権の確定に関する行政訴訟の結果を待つことが多い。しかしながら、中国の2021年1月1日より施行された「最高人民法院關於修改《最高人民法院關於審理侵犯專利權糾紛案件應用法律若干問題的解釋(二)》等十八件智慧財產權類司法解釋的決定(「最高人民法院の《最高人民法院による専利権侵害紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈(二)》等18件の知的財産権系司法解釈の改正に関する決定」)における第5条には、「人民法院が受理する実用新案権、意匠権の紛争案件において、被告が、答弁の期間内に、当該専利権の無効審判を請求する場合には、人民法院は、訴訟を中止しなければならないが、以下に示す各号のいずれかに該当する場合には、訴訟を中止しなくてもよい。(一)原告が提出した検索報告書や、実用新案の技術報告書によれば、実用新案権又は意匠権を無効とする事由を見出せないとき;(二)被告が提供した証拠により、その使用する技術がすでに公知であることを証明するに足るとき;(三)被告が当該専利権の無効審判を請求するにあたって提供した証拠又は根拠とする理由が明らかに不十分であるとき;(四)人民法院が訴訟を中止してはならないと考えるその他の事由」との規定を有し、且つ、当該決定の第7条には、「人民法院が受理した発明の専利権の侵害紛争案件、又は国務院専利行政部門の審理を経て発明の専利権が維持された実用新案権、意匠権侵害の紛争案件において、被告が答弁の期間内に当該専利権の無効審判を請求する場合、人民法院は訴訟を中止しなくてもよい」との規定を有する。また、前記第5条及び第7条に記載されている答弁の期間については、中国の民事訴訟法第125条第1項の規定によると、被告である被疑侵害者が訴状の副本を受領した日から十五日以内であり、その期間が極めて短いことから、被疑侵害者が、知的財産局において改めて無効審判を請求することにより、人民法院は状況に応じて訴訟を中止しないこともあるが、訴訟を一時中止すると、被疑侵害者の答弁に必要な証拠を集める時間を長くすることができるので、被疑侵害者にとって、無効審判を請求することは、必ず行う防御方法であると考える。

更に、前記人民法院の決定における第6条には、実用新案権、意匠権侵害の紛争案件に対し、「被告が答弁期間満了後に知的財産局で当該専利の無効審判を請求する場合、人民法院は訴訟を中止しないこととするが、審査を経て訴訟を中止する必要があると考える場合には、訴訟を中止することができる」と規定されている。

また、被疑侵害者は、人民法院において行える防御手段の一つが、現有技術の抗弁であり、つまり、専利法第67条に規定されている「特許侵害の紛争において、被疑侵害者が、その実施する技術又はデザインが現有技術、あるいは現有デザインに属することを証明する証拠を有する場合、特許侵害を構成しない」ことであると共に、同法第22条第5項及び第23条第4項には、現有技術又は現有デザインの定義が明確に示されており、つまり「本法でいう現有技術とは、出願日以前に国内外において公然知られた技術を指す」こと、及び「本法でいう現有デザインとは、出願日以前に国内外において公然知られたデザインを指す」ことが規定されている。

しかしながら、現有技術の抗弁は、「当該専利権は、現有技術又は現有デザインであるか否か」のみを判断し、つまり、「当該専利権の請求の範囲に関する特許要件、例えば明確性等は、法律を満たすか否か」との、無効抗弁において抗弁できることについて全く探究していないことが分かる。

【まとめ】

特許無効の抗弁を請求し得る台湾での特許侵害訴訟と比べ、中国での特許侵害訴訟において主張可能な現有技術の抗弁は、被疑侵害者の防御手段及び答弁の範囲を制限するものであるため、被疑侵害者は、現有技術の抗弁を主張すると同時に、中国知的財産局において改めて無効審判を請求しなければ、被疑侵害者の防御手段が不十分なため、被疑侵害者にとって不利であると考える。

※詳細については、ipdept@taie.com.twまでお問い合わせ下さい。 

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