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出版品(特実意)
台湾と中国における、複数の引例の組み合わせに基づく進歩性/創造性判断に関する規定の相違 (2023/03/28)

編集部

一、前書き

台湾の進歩性と中国の創造性とは、台湾と中国の特許出願の審査プロセスにおいて最もよく直面する拒絶理由であり、審査官が進歩性/創造性欠如を理由に出願を拒絶する場合、複数の引例を組み合わせて、請求項が進歩性/創造性を有しないと拒絶するパターンが多い。但し、台湾と中国における複数の引例の組み合わせに係る規定は完全に同一ではなく、同一の複数の引例を引用した場合でも、同一の特許出願についての進歩性/創造性判断は、台湾と中国で異なる結果になる可能性もある。従って、本文では、複数の引例の組み合わせに関する、台湾の特許審査基準と中国の特許審査指南との規定の相違を比較する。

二、台湾について

台湾特許審査基準第二篇第三章に記載されている「3.4進歩性を判断するステップ」における、最後のステップである「当業者が従来の技術に開示された内容及び出願時の通常の知識に基づいて、特許出願の発明を容易に完成できるか否かを判断する」との規定において、「進歩性を否定する要素」及び「進歩性を肯定する要素」を総合的に考慮すべきであると定められている。また、台湾における複数の引例の組み合わせに関する規定によると、「進歩性を否定する要素」における「3.4.1.1複数の引例を組み合わせる動機付けを有する」との規定では、以下に示す2つの原則を含む。

第一、複数の引例の技術内容を組み合わせる動機付けを有するか否かを判断する場合、後知恵を避けるために、「引例の技術内容と特許出願の発明」の技術内容の関連性又は共通性を考慮するのではなく、「複数の引例同士」の技術内容の関連性又は共通性を考慮すべきである。

第二、「複数の引例」の技術内容を考慮する場合、「技術分野」の関連性、「解決しようとする問題」の共通性、「機能又は作用」の関連性、及び「教示又は示唆」等の4つの事項を総合的に考慮すべきである。

故に、台灣では複数の引例の組み合わせを判断する場合、複数の引例同士の内容を対比すると共に、技術分野、解決しようとする技術的問題、機能又は作用等の動機付けとなり得る観点を総合考慮するものである。

三、中国について

中国における創造性の規定は、特許審査指南第二部分第四章に記載されているように、創造性の有無は主に、「突出した実質的特徴」及び「顕著な進歩」の有無を考慮して判断され、そのうち、「突出した実質的特徴」とは、当業者が、現有技術に基づいて、単に論理に沿う分析、推理又は限られた試験により発明(請求項)の内容を得ることができないことである。

中国において複数の引例の組み合わせに関する規定は、「3.2.1突出した実質的特徴の判断」の第(3)項に記載されており、その3ステップの最後のステップである「保護を請求する発明が当業者にとって自明的であるか否かの判断」において、「(iii)前述の区別特徴(即ち、請求項における、第1の引例に開示されていない特徴、相違特徴)は別の引例に開示されている関連の技術手段であり、且つ該技術手段がこの(別の)引例において果たす作用と、該区別特徴が保護を請求する発明においてその新たに確定された技術的問題を解決するために果たす作用と同一である」と規定され、この場合、一般的に、現有技術(別の引例)において、前述の区別特徴を最も近い現有技術(第1の引例)に適用することにより、技術的問題(発明が実際的に解決する技術的問題)を解決することが示唆されていると判断される。この示唆は、当業者が技術的問題に直面した場合に、最も近い現有技術(第1の引例)を改善し、保護を請求する発明を得るための動機付けになる。

よって、中国における複数の引例の組み合わせの判断手法は、第2の引例(別の引例)と特許出願の発明とを対比すると共に、第2の引例が特許出願の発明と同一の作用を果たすか否かを考慮し、より具体的に言うと、第2の引例が、区別特徴によって該特許出願の発明が解決しようとする技術的問題を解決するために果たす作用を達成できるか否かを考慮するので、即ち中国では、主に第2の引例による作用を考慮する。

四、台湾と中国の規定の比較:

上記両国における規定の説明からも明らかなように、複数の引例の組み合わせについて、先ず、台湾では「複数の引例同士」の技術内容の関連性又は共通性を考慮するのに対し、中国では「第2の引例と特許出願の発明と」を比較するので、両国において第2の引例の「対比対象」が異なっている。

又、引例の対比時に、台湾では技術分野、解決しようとする技術的問題、機能又は作用等の観点を考慮するのに対し、中国では作用のみを考慮し、比較的に技術分野、解決しようとする技術的問題等の観点を考慮していないので、両国において第2の引例の「比較の項目」は完全に同一ではない。

よって、法律の面からみると、たとえ中国における第2の引例の技術分野が特許出願の発明の技術分野と比較的に関連性を有しなくても、それを引例1に組み合わせることができる。しかしながら、台湾では、第2の引例は、第1の引例の技術分野と大きく異なる場合、第1の引例と組み合わせる動機付けを有しないと認められる可能性が高い。故に、中国では、第2の引例を第1の引例に組み合わせることができないと主張を行う際に、第2の引例の作用から論理を展開することは多い。

具体的に、中国では、第2の引例が区別特徴が解決しようとする技術的問題を解決するために果たす作用を達成できるか否かを非常に重要視しているが、区別特徴自身による作用と、請求項における他の特徴による作用とは、相互作用の関係にあることにより、新な全体的な作用をもたらすこともあることから、2つの引例が該請求項の一部の機能を別々に開示し、該請求項の発明全体による機能を開示していないにもかかわらず、単に区別特徴自身による作用のみを考慮し、そして2つの引例の組合せに基づいて創造性欠如を理由に拒絶査定することは、明らかに公平ではない。

従って、中国国家知識産権局は、審査官の3ステップ法に対する機械的な判断を防ぐと共に、区別特徴自身による作用のみを考慮して第2の引例を検索し、請求項全体の作用を無視するようなことを避けるために、2019年11月1日に施行された特許審査指南の改訂版第二部分第四章第3.2.1.1.節第(2)項には、「機能的に相互的に支持しあい、相互作用の関係にある技術特徴については、当該技術特徴とこれらの特徴間の関係が保護を請求する発明において果たした技術的効果を、全体的に考慮すべきである」旨の内容が追加されている。故に、実務上、審査官に引用された第2の引例が単に区別特徴による作用のみを開示する時、区別特徴が請求項に記載の他の特徴と相互に作用しあい、新たな作用を生み出せると判断した場合、意見陳述書を提出する際に、前記特許審査指南の改訂内容を引用して、第2の引例が請求項の発明による全体的な技術効果を開示していないことを主張することができる。

一方、台湾では、特許審査基準において、複数の引例を組み合わせた各技術的特徴及び機能が相互に作用したか否かを考慮すべきである旨が記載されている。仮に、複数の引例の各技術特徴が機能的に相互に作用していなく、本来のように別々に作用した場合、それは単なる寄せ集めと認定されることになる。

五、結論

台湾と中国における複数の引例の組み合わせの判断について、同一の部分もあれば、異なる部分もある。いずれにせよ、上記相違は、単に特許出願の発明の進歩性/創造性を客観的に評価するためのものに過ぎない。もし答申/意見陳述書を提出して進歩性/創造性を有することを主張する場合、一部の意見が他国の審査実務に基づくものであっても、例えば中国で2つの引例の技術分野や技術的問題が異なることに基づく主張は、中国の創造性の判断手法に沿ったものではないかもしれないが、意見が合理的で、且つ論理的である限り、許可率を上げるためにそれらの意見を答申書/意見陳述書に書き入れることも、対応方法の一つとして考えられる。

※詳細については、ipdept@taie.com.twまでお問い合わせ下さい。 

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