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事例(商標)
「Blackmamba 設計字」商標に係る異議申立の事件 (2021/03/02)

朱鈺盈

商標が、「他人の肖像又は著名な氏名、芸名、ペンネーム、屋号があるもの。」である場合は、商標法第30条第1項第13号に該当し、登録を受けることはできない。以下、商標法第30条第1項第13号に該当するものと認められ、登録が取消された「Blackmamba 設計字」商標に係る異議申立の事件をご紹介する。

最高行政裁判所109年度(西暦2020)裁字第1092号の判決について

事件の概要:

係争商標

登録番号:第01804197号
商標権者:林沅滸
出願日:2016年04月21日
登録日:2016年11月16日
商品の区分:25
指定商品:衣服、Tシャツ、コート、自転車ライダー用の服、オートバイライダー用の服、車の運転用服装、スポーツウェア、女性服、男性服、靴、スポーツシューズ、頭巾(バンダナ)、涎掛け、運動帽子、帽子、靴下、服飾用手袋、ウェストバンド、エプロン、睡眠用目隠し。

 

上告人である「林沅滸」は2016年4月21日に「Blackmamba 設計字」商標をもって、第25類の衣服などの商品を指定して被上告人(知的財産局)に出願し、該商標は被上告人の審査を経て、登録第1804197号商標(係争商標)として登録された。その後、参加人である「KOBE INC.」は、係争商標が商標法第30条第1項第11、12、及び13号の規定に違反したとの理由をもって、係争商標に対して異議を申し立てた。その後、被上告人が審査した結果、係争商標は、商標法第30条第1項第13号に該当すると認めたことから、取消処分を下した。上告人はその処分に不服を有することから、訴願、続いて行政訴訟を提起したが、訴えが棄却された。上告人はその判決を不服として上訴したが、それに対して最高行政裁判所も、「原判決の内容は法律に違反することはない。よって、上訴を棄却し、原判決を維持する」との旨の判決を下した。

最高行政裁判所の判決理由の概要:

一、「BlackMamba」はアメリカのNBAスター「KobeBryant」の国内における著名な芸名であることについて、原判決は既に数多くの証拠をもって、それを証明した。

二、「著名」であるか否かの判断においては、社会が判断される対象に対する認知度によって判断すべきであり、判断される対象は「商標」であるか、又は「芸名」であるかとの区別がない。

三、原判決は商標法における「著名」の認定基準に係る規定を引用し、法律に事実をあてはめたことから、違法ということはない。

四、商標法第30条第2項の規定によると、「著名」を認定する際は、「出願時」を基準とする。

五、商標法第50条の規定によると、異議申立てに係る商標の登録に違法の事由があるか否かは、その「登録公告時」の規定による。

六、係争商標は商標法第30条第1項第13号に該当するか否かについて、その事實上の狀態及び法律上の狀態の認定基準はそれぞれ出願時(2016年4月21日)及び登録公告時(2016年11月16日)であることから、知的財産局の原処分の正当性は、KobeBryantが2020年1月26日(係争商標)に死亡したことにより、変化することはない。

七、最高裁判所による104年度台上字第1407号の民事判決には、「人格権は、商業活動に使用される客観的事実があると共に、その商業活動により経済效益が生じる場合、財産権の性質を有するので、保障されるべきである」ことが明記されている。

八、上告人は、「KobeBryantが2020年1月26日に死亡した」ことを事由として、原処分は「その後」違法になると主張することは、立証できない。

九、以上のことから、上告人による訴えを棄却する。

知的財産局による当該判決に対するコメント:

本件の判決書によると、最高行政裁判所は、原判決が商標法における「著名」の認定基準に対する判断を肯認しており、「著名」であるか否かの判断においては、社会が判断される対象に対する認知度によって判断すべきであり、判断される対象は「商標」又は「芸名」との区別はないことを認定した。また、係争商標は商標法第30条第1項第13号に該当するか否かについて、その事實上の狀態及び法律上の狀態の認定基準はそれぞれ出願時及び登録公告時であることから、原処分の正当性は、該氏名権者がの途中で死亡したことにより、変化することはないとの判断を下した。

筆者の見解:

この異議申立の件について、筆者は原判決及び最高行政裁判所の「『著名』であるか否かの判断においては、社会が判断される対象に対する認知度によって判断すべきであり、判断される対象は「商標」又は「芸名」との区別はない」との見解に同意する。しかしながら、原判決においては、知的財産裁判所は「Black mamba Kobe」をキーワードとしてGoogleで検索した結果、主な検索結果はいずれも米国NBAバスケットスター選手のKobe Bryantの情報と関連していたことに対し、上告人の主張においては、「Black Mamba」をキーワードとしてGoogleで検索した結果、「KobeBryant」を「Black Mamba」と称することはあまり見られない。よって、消費者は「Black Mamba」のみに着目した場合、果たして「KobeBryant」を連想するかどうか、この資料を証拠として、「BlackMamba」はアメリカのNBAスター「KobeBryant」の国内における著名な芸名であることを証明するのは、適当であろうか、この点は議論の余地があると考える。

一方、本件は、商標法第30条第1項第13号に該当するものと認められ、取消処分となった異議申立の事件であると共に、最高行政裁判所は、「原処分の正当性は、該氏名権者が訴訟中で死亡したことにより、変化するわけがない」との判断を下した。しかしながら、上告人が係争商標を改めて出願する場合、商標法第30条第1項第13号に該当するか否かについて、筆者は台湾特許庁のデータベースにて調べたところ、本件の上告人である「林沅滸」は、「KobeBryant」の死亡後、2020年2月6日に、同商標をもって、第25類について改めて出願第109006527号として出願した。尚、この度は商標法第30条第1項第13号ではなく、商標法第30条第1項第7号「公序良俗を害するもの。」に該当すると認められ、2020年8月31日に拒絶査定を受けた。

その拒絶査定通知書において、審査官は公序良俗を害する商標の審査基準の内容を引用し、「近代の著名故人の肖像、名称を商標として出願する場合、消費者に鮮明な印象を残していることから、もし出願人が不当にその故人のイメージを利用する行為があれば、その指定商品は何物であっても、公共の利益に影響を与え、社会に反感を抱かせ、或はその相続人や配偶に自分は軽蔑されたというマイナスイメージを与える可能性があることから、出願する前に、商標法第30条第1項第7号に該当するか否かについて、考慮しなければならない。」と指摘した。

本件の判決書及び上記の拒絶査定通知書は、同じく、「人格権から経済效益が生じる場合、該人格権者の死亡後も、消滅せず、保障されるべきである」との見解に基づいて判断された結果であることから、両者の見解は一致し、矛盾することはないと考える。

 

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