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事例(商標)
「東亞TONYA及び図形」商標に係る三年不使用取消審判の事件 (2020/12/1)

藍含青

商標は、「正当な理由なしに連続して3年間使用していない」場合は、商標法第63条第1項第2号に該当し、商標専属責任機関が職権又は請求によりその登録を取り消さなければならない」。しかしながら、使用商標は、係る登録商標の使用に該当しているか否か、又、商品の性質に係る判断基準も、知的財産局と知的財産裁判所によって判断が異なることがあるので、以下にて案件をご紹介する。

知的財産裁判所108年度行商訴字第114号の判決について

知的財産局及び経済部の判断:実際に使用された商品が性質的に指定商品と異なることにより、係争商標は、3年以上指定商品に使用されていないことが明らかであるので、登録を取消しとする。

知的財産裁判所の判断:実際に使用された商品が性質的に指定商品の「防火靴」と同一であることにより、係争商標は、この3年間、該部分の指定商品に使用されたことを認められるが、他の指定商品に使用されていないことが明らかであるので、「防火靴」に対する知的財産局の処分及び訴願の決定を取り消し、原告(商標権者)による残りの訴えを却下とする。(係争商標の指定商品「防火靴」における登録が維持されることになった)

 

【商標見本1(係争商標)】
商標名:東亞TONYA及び図形
商標権者:得裕盛業股份有限公司
(TOH YUH SHOES MFG., CO., LTD.)
台湾商標登録番号:01405060
出願日:2009年9月16日
登録日:2010年4月16日
商品の区分:9
指定商品:救命防護用具救命装置付きの作業着、クリーンスーツ、コンピュータ用防護服、溶接用防護服、農薬散布用防護服、帯電防止作業服、対爆スーツ、工業用安全ベルト、工業用防護手袋、安全網、工業放射線防護用手袋、防弾チョッキ、作業用ひざ当て、事故防止用及び放射性汚染防護用及び防火用服、事故防止用及び放射性汚染防護用及び防火用靴、オートバイ競技用プロテクター、防火服、防火靴。

 

 

 

 


 

 

 

事件の概要:

取消審判の請求人である「中国電器股份有限公司」は2017年10月18日に、「登録第1405060号商標は、3年以上指定商品に使用されていないことは明らかであることから、商標法第63条第1項第2号に該当しているので、該商標権を取り消すべきである」との理由をもって、係争商標である登録第1405060号商標に対して3年不使用取消審判を請求した。その後、知的財産局が審査した結果、「係争商標は指定商品に使用されていないと認められるので、その登録を取り消す」との旨の処分を下したが、原告(登録権者)は、指定商品である「事故防止用及び放射性汚染防護用及び防火用靴、防火靴」に対する処分に不服を有することから、訴願、続いて行政訴訟を提起した。それに対して知的財産裁判所は、「係争商標は、『防火靴』に使用されたことが認められたので、該部分に対する原処分及び訴願決定を取り消す。よって、知的財産局は、『防火靴』に対する商標権を維持すべきである」との旨の判決を下した。

知的財産裁判所の判決(知的財産裁判所108年度行商訴字第114号)の概要:

一、原告(登録権者)は、指定商品の「事故防止用及び放射性汚染防護用及び防火用靴、防火靴」に対する処分のみに不服を申し立てた。本判決の主旨は、取消請求日前の3年間に、係争商標が、指定商品に使用されている事実が存在しているか否かについて論述する。

(一)指定商品「防火靴」について

1.原告 (登録権者)が提出した出荷証明書に記載された商品名、数量及び金額は、購入者宛てのレシートに記載されたものとは照合できると共に、証人の証言とも合致しており、また、併せて提出した防火耐熱靴の靴底及びそのパッケージにも、東亞の球状図形(商標見本2)が記載されていることから、原告は、確かに取消請求日前の3年間、商標見本2 を防火靴に使用したことを認めた。

2.商標の同一性とは、実際使用されている商標と登録商標とは、形式上多少の相違点があったとしても、実質上、登録商標を識別する要部の特徴を変更することは特にないため、社会通念及び消費者の認知により、消費者に同一の印象を与えることから、同一の商標であると認められる(最高行政裁判所108年判字第133号判決にご参照下さい)。これに照らすと、提出された使用証拠にある実際の使用態様は、東亞球状図形、英文字「TONYA」の位置及び大小 、球状図形に描かれた経緯線の数量及び位置において、登録商標のものと多少相違している。しかしながら、全体的に見ると、係争商標の主要識別部分は、漢字の「東亞」が真ん中に配置され、全体が地球のようにデザインされた球状図形のはずであり、また、添付された商標見本2に記載された標識にも類似した東亞球状図形を有することから、実際の使用態様はさほど係争商標の主要識別部分を変更していないので、社会通念によると、係争商標と同一であると認められる。よって、係争商標は、取消請求日前の3年間、「防火靴」に使用したことを判断できる。

(二)指定商品「事故防止用及び放射性汚染防護用及び防火用靴」について

1.文字解釈によると、係る商品は、同時に三つの用途を備える靴であると共に、係る商品名称は、まさにニース協定の商品・サービス国際分類表に記載されている第9類商品「shoes for protection against accidents, irradiation and fire」の中国語直訳名称である。また、係争商標の指定商品には、上記商品の他、「防火靴」も有することから、原告は、出願する際に、「事故防止用及び放射性汚染防護用及び防火用靴」を多用途を備える単一の商品として認知したことが判明できる。さもなければ、「防火靴」の重複出願になる。よって、原告による「『事故防止用及び放射性汚染防護用及び防火用靴』は、『事故防止用靴』、『放射性汚染防護用靴』及び『防火用靴』など、三種類の靴商品に解釈すべきである」との主張は、採用できない。

2.原告が提出した取引書類は、安全靴の販売事実を証明できるからといって、商品の説明によると、安全靴には、あくまでも足指を守り、衝撃を軽減する防護機能を有し、同時に防火、放射性汚染防護の機能を有することを証明できないことから、前記資料だけでは、係争商標が「事故防止用及び放射性汚染防護用及び防火用靴」に使用されていることを証明し難い。

3.一方、原告が提出した他の証拠資料によると、商品は「安全靴」、「防火靴」に限定していると共に、それらの商品に「同時に放射性汚染防護機能」を有することも証明できない。

4.原告が、「被告人(知的財産局)が公表した『商品及び特定商品小売の個数計算原則及び例示』によると、商品の個数は、商品に付く説明(形容詞)によって計算することから、係る商品名称は、三種類の靴を示している」と主張したが、該原則は、登録出願の政府料金を計算するに当たっての基準だけであり、取消審判に係る実際の商品数とは関係しない。

二、以上のことから、原告が提出した証拠資料では、係争商標が取消審判請求日前の3年間において、確かに指定商品の「防火靴」に使用されている事実を立証できるので、この部分に関する原処分及び原訴願決定を取消すべきである。一方、「事故防止用及び放射性汚染防護用及び防火用靴」に関しては、証拠力が足りなく、依然として商標法第63条第1項第2号の適用があることから、原告による訴えを棄却する。

知的財産局による当該判決に対するコメント:

本件の判決書によると、原告が実際に使用している商標と登録商標が異なっているか否かについての判断は、「同一性」の有無次第であり、登録商標における主要の識別特徴を変更しない限り、係争商標の使用と認められる。しかしながら、指定商品と実際使用されている商品の性質について、同一しているか否かの判断には、裁判所は比較的に厳しい文字解釈を取っており、「原告が出願する際に、明らかに『事故防止用及び放射性汚染防護用及び防火用靴』を多用途を備える単一の商品として認知した。さもなければ、『防火靴』の重複出願になる」との判断を下したが、本件の「事故防止用及び放射性汚染防護用及び防火用靴」について、出願の際に、三つの商品として政府料金を支払ったので、提出された「防火靴」商品及び他の使用証拠だけでも、「事故防止用及び防火用靴」の使用事実を認めるべきである。本件の判決に対する商品性質の認定基準は割と珍しいので、今後の進展に留意することを勧める。

筆者の見解: 

この取消審判の件について、筆者は知的財産裁判所の見解に同意する。何故なら、一般の知識経験を有する消費者は、「事故防止用及び放射性汚染防護用及び防火用靴」との文字表現を、「一種の靴」の用途を説明する描写として理解する傾向があると思われるからである。ところが、取消審判の審査における商品又は役務の性質を判断する際、このような解釈の不確定性を避けるためには、やはり出願の段階で、指定商品をより明確に、実際に使用する商品と近い、又は上位概念のもので表示した方が得策だと考えます。

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