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事例(商標)
植物の品種名に係る文字からなる商標の登録可否について (2022/1/3)

王婉

植物品種の出願・登録については、「植物品種及び種苗法」に詳細な規定が設けられているが、品種名が商標として識別力を有するか否かについて判断する際に、「植物品種及び種苗法」が公告した植物の種類に基づき判断することではなく、消費者の認識に基づき判断すべきである。以下、係るケースを紹介する。

出 願 日:2018年3月29日

出願番号:107019302

登 録 日:2018年10月1日

登録番号:01942623

所 有 者:台湾籍・黃崇政

指定商品:第31類
生鮮果実、生鮮野菜、イチジク(無花果)、花苗、苗木、植物苗、草苗、果樹の苗木、イチジク(無花果)の苗。


【経緯】

(一)出願審査の段階で、

該商標は識別力を有するものであると認められ、2018年10月1日に登録を受けた。

(二)無効審判の段階で、

 2018年12月6日に知的財産局の審査官が、職権により該商標に対して無効審判を請求した結果、「商標法第29条第1項第1号には、『商標が商品又は役務の品質、用途、原料、産地又は特性の説明のみからなるものである場合は、登録を受けることはできない』との規定を有する。これに照らすと、『海菲爾』との文字は、消費者にイチジク(無花果)の品種名であると認識されていることから、識別力を有しないので、商標法第29条第1項第1号に該当する。」との理由により、本件商標登録を無効にした。

(三)訴願及び行政訴訟の段階で、

この無効審判の審決に不服を有する出願人は、訴願及び行政訴訟を提起したが、経済部訴願委員会及び知的財産裁判所は、請求棄却(審決を維持する旨)の判決が下さった。即ち、本件商標は最終的に登録を受けることができない。

【出願人の主な主張】

一、台湾の行政院農業委員会が2018年11月23日に公告した説明には、「『イチジク(無花果)』は、『植物品種及び種苗法』を適用する植物の種類ではない。」と明記されているので、「海菲爾」との文字は品種名に該当しないはずであり、商標として識別力を有する。

二、出願人による実際の使用により、「海菲爾」は既に後天的識別力を取得しているので、登録を受けるべきである。

【知的財産局、訴願委員会、知的裁判所の見解】

一、たとえ「イチジク(無花果)」は「植物品種及び種苗法」が公告した植物の種類ではないため、「海菲爾」との文字が品種名として登録することができなくても、消費者が該文字を品種名として認識している限り、商標としての識別力がないと認められる。即ち、「植物品種及び種苗法」に基づいた品種登録の有無を問わず、消費者の認識に基づき識別力の有無を判断すべきである。

二、出願人は、「本件商標は品種名ではない」と主張したが、2018年2月から8月までの間で、FACEBOOKの「イチジク栽培交流掲示板」などの掲示板において、出願人である黃崇政氏を含むイチジクの栽培に携わっている業者たちは、下記の文章を投稿したことが判明した。

(1)「今年の2月にアメリカのカリフォルニアにある『海菲爾(Hatfield)氏』が所有する農園から、『海菲爾(Hatfield)氏』が育成した品種『海菲爾』を輸入した。…」(投稿日:2018年8月24日 /投稿者:黃崇政)

(2)「…海菲爾シリーズ…『海菲爾』との品種は既に台湾に輸入した。…」(投稿日:2018年6月20日 /投稿者:Bernice Hatfield)

(3)「…海菲爾イチジクの特性を紹介する。…(3)世界中ただ一つ果皮が破れにくい品種である。…」(投稿日:2018年2月14日 /投稿者:黃崇政)

(4)「…現時点で全ての品種の苗については、必ずしも在庫があるとは限らない…。…『MR』、…『海菲爾』、…などの品種がある。」(投稿日:2018年3月20日 /投稿者:宝信イチジク)

上記の資料からみると、出願人自身又はその他の業者は、「海菲爾」との文字をイチジクの品種名として使用すると共に、消費者にとって、「海菲爾」はある品種のイチジクを表示する文字であるにすぎないことから、商品又は役務の出所を識別する機能がないので、識別力を有しない。一方、「海菲爾」との文字は、出願人と競争関係にある同業者が必ず又は通常、商品又は役務自体又はその他関連説明を表示するのに用いるものであるため、商標権(排他的専属権)を出願人に付与した場合、同業者の公平な競争に影響を及ぼすので、「海菲爾」との文字は登録を受けることができない。

三、出願人は、「実際の使用及び宣伝により、本件商標は既に後天的識別力を取得している」と主張したが、係る商品の売上高、市場占有率、広告量、広告費用、販促活動の資料、販売地域、販売拠点又は展示・陳列箇所の範囲、各国の登録証明、市場調査、その他後天的識別力の認定の根拠となる証拠などを提出しなかったので、「本件商標は既に後天的識別力を取得している」とは認められない。
       

▼筆者の見解

商標が、「商品又は役務の品質、用途、原料、産地又は特性の説明のみからなるもの」である場合は、台湾商標法第29条第1項第1号に該当し、登録を受けることができない。又、ある商標が植物の品種名であると認められると共に、植物に関連する商品・役務を指定し出願した場合、通常、識別力を有しないと判断され、前記条文に基づき拒絶される。

しかしながら、該商標は品種名であるか否かについて判断するとき、品種登録の有無を問わず、消費者の認識又は競争関係にある同業者の使用状態に基づき判断されます。つまり、台湾において、「植物品種及び種苗法」に基づき品種登録された文字であっても、商標として登録を受けた例が存在するが、上記「海菲爾」のケースのように、品種登録されなくても、出願人自身がSNSマーケティングを行う際に、該文字を品種名として使用しているので、識別力がないと認められ、最終的に商標登録を受けることができない。

このことから、植物の品種名に係る文字からなる商標をもって、登録を取得したい出願人は、実際の使用態様や方法に要注意であり、特にWebマーケティング又はSNSマーケティングを行う際に、該文字は商標であることを強調すべきであり、品種名としての使用は避けた方が得策であると考える。 

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