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事例(商標)
「好旺」商標に係る異議申立の事件 (2020/9/15)

王婉

商標が、「同一又は類似の商品又は役務について指定した他人の登録商標又は先に出願された商標と同一又は類似であり、関係消費者に混同誤認を生じさせる虞があるもの」である場合は、商標法第30条第1項第10号に該当し、登録を受けることはできない。しかしながら、両商標に係る指定商品・役務が類似している否かについては、知的財産局と知的財産裁判所によって判断が異なる案件を以下にてご紹介する。

知的財産裁判所108年度行商訴字第100号の判決について

◆知的財産局及び経済部の判断:商品非類似により、異議申立不成立

◆知的財産裁判所の判断:商品類似により、異議申立成立(登録が取消された)

 
事件の概要:

異議申立人である「宜蘭食品工業股份有限公司」は2018年8月7日に、「登録第01918644号商標は、商標法第30条第1項第10号に該当しているので、該商標権を取り消すべきである」との理由をもって、係争商標である登録第01918644号商標に対して異議を申し立てた。その後、知的財産局が審査した結果、「両商標の指定商品は類似しないと認められるので、本件の異議申立は成り立たない(係争商標の商標権を維持する)」との旨の処分を下したが、異議申立人はその処分に不服を有することから、訴願、続いて行政訴訟を提起した。それに対して知的財産裁判所は、「係争商標は、商標法第30条第1項第10号に該当するので、訴願及び原処分を全て取り消す。よって、知的財産局は、係争商標の商標権を取り消すべきである」との旨の判決を下した。

知的財産裁判所の判決(知的財産裁判所108年度行商訴字第100号)の概要:

一、両商標は同一商標と言うべきである。
二、係争商標の指定商品における「鶏卵、卵、蛋白、調理用蛋白、蛋の黄身」は、引用商標の指定商品における「クッキー、パン、ケーキ」などを製造するための重要な原料であり、それらの商品の機能には相互補完作用がある。また、市場において、係争商標の指定商品における「茶葉蛋(チャーイエダン)、鉄蛋(ティエダン)」は、引用商標の指定商品である「果物砂糖漬け、飴菓子、クッキー、ポップコーン、パン、ケーキ、米菓子、ポテトチップス、玉ねぎチップス」と共に、同じ「スナック」、「お菓子」との商品カテゴリーに分類され、生産者又は販売ルートも重複している。尚、係争商標の指定商品における「餃子、ヌードル、ラーメン」及び引用商標の指定商品における「クッキー、パン、ケーキ」は、消費者の空腹を満たす食べ物であり、一般の消費者にとって、両商標の指定商品に明確な区別はない。従って、両商標に係る指定商品の間には、原料と製品の関係があると共に、それらの材料又は生産者も重複しているので、両商標の指定商品は類似していると言え、その類似程度は「中度」と認められる。

知的財産局による当該判決に対するコメント:

本件の判決書によると、両商標の指定商品が類似しているか否かについての判断をする際に、係争商標の指定商品における「ブイヨン」に対する判断を失念してしまったので、該判決には理由不備に係る違反があるようである。その上、商品又は役務の類似性の判断には限界があるべきであり、全ての件を限界なく弾力的に判断すると、商標出願人にとって不確定性が増し、後願の商標出願人に不利となる(最高行政裁判所101年度判字第809号判決の趣旨をご参照下さい)。更に、混同誤認の虞の有無の判断においては、各項の参酌要素(知的財産局が公表した混同誤認之虞の審査基準をご参照下さい)に相互作用の関係があるが、両商標が同一であっても、両商標に係る指定商品・役務の類似性が高くなるわけがない。もし単に両商標が同一であるとの理由だけで、「両商標の指定商品・役務は類似である」と判断された場合、商品・役務の類似性を判断する基本原則が崩壊し、商標登録制度における不確定性が大幅に増大する。

筆者の見解:

商標法第30条第1項第10号の適用においては、商標が類似又は同一である以外に、商品・役務も類似していなければならない。尚、この異議申立の件について、筆者は知的財産局の見解に同意する。何故なら、商品又は役務の類似性の判断について、限界があるべきと考えるからである。さもなければ、限界なく弾力的に類似性を判断することにより、商標出願における不確定性が大幅に増大し、先願の商標出願人/商標権者を過大に保護してしまう虞があるので、後願の商標出願人に不利となる。 

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