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出版品(法律/訴訟)
被疑侵害者は自発的に確認訴訟を提起できる? (弁護士 江郁仁) (2015/6)

一般的に、特許権(本文においては、特許権、実用新案権、及び意匠権を含む意味で使われる)者が権利行使をしょうとする時に、ほとんどの場合、先に被疑侵害物品がその権利を侵害しているかの分析を行い、分析結果で被疑侵害物品が権利範囲に含まれている場合、被疑侵害者に対し、警告状及び分析結果を発送する。その後、双方が権利の侵害に関する紛争の解決に対し一致する認識がない場合に、特許権者は侵害訴訟を提起することによりその権利を守る。ところが、現在の特許権侵害訴訟の統計データから見ると特許権者が訴訟を通して権利を主張することは容易ではなく、その理由は、訴訟において特許権者は被疑侵害物品がその権利範囲に含まれていることを証明しなければならなく、且つ、ほとんどの場合、権利の有効性について争う事になり、被疑侵害物品が権利範囲に含まれているかどうか或いは権利に有効性があるかどうかの問題を克服したとしても、権利者は主張する損害賠償額の立証責任を負われるなどの様々な難関により、勝訴率が低く、権利者が民事侵害訴訟を起こしたとしてもその結果は期待を外れることが多い。

民事侵害訴訟を提起しても権利者は実質的に得られる利益がさほど大きくないこともあって、特許権を有効に生かしたい一部の権利者は訴訟を提起する代わりに警告書を被疑侵害者及び被疑侵害者の取引相手に同時に発送し、被疑侵害者の取引相手が権利侵害を回避するための被疑侵害物品の販売停止及び被疑侵害者との取引停止を狙って、商業上の実質的な効果を得ようとする行動に出ることもある。知的財産案件審理細則第29条では、知的財産民事訴訟の当事者が、知的財産権の効力又は取消、廃止事由の有無との争点について、独立して訴訟を提起し、民事訴訟中において当該法律関係の確認判決を併せて求め、又は反訴を提起することは、知的財産案件審理法第16条の趣旨に反するので、裁判所はこれを棄却するべきであると規定されている。従って、特許が無効であるかを確認するのみの訴訟を提起することができなく、特許権者の特許権侵害訴訟を回避した権利主張に対して、被疑侵害者は特許権者の主張に対抗する手段として無効審判を提起することしかないというのが一般的な認識であった。しかしながら、知的財産裁判所102年第102号の判決は、このような場合における被疑侵害者の対抗手段として他の選択肢を提供した。

当該判決の事実は、権利者が発した通告書(侵害物品の輸入、販売により特許権を侵害されている)に対し、被疑侵害者は特許権の侵害をしていない旨の返信をしたにもかかわらず、権利者は被疑侵害者の取引相手に対し、警告書を発送した。それにより、被疑侵害者の取引相手は被疑侵害物品の販売停止及び被疑侵害者との取引を停止した。被疑侵害者は、権利者が特許権侵害訴訟を提起せずに、警告書のみを発することにより被疑侵害物品が特許権利を侵害しているかどうかが不明確となることから、被疑侵害者の私法上の地位が侵害される危険があると主張し、その危険を確認判決により排除することができるので、民事訴訟法第247条第1,2項の規定により確認訴訟を提起したものである。

前記判決において、被疑侵害者が確認訴訟を提起できるかどうかについて、民事訴訟法第247条第1、2項に規定されている「確認判決の即時確定による法律上の利益」とは、法律状態の存否が不明確、すなわち双方がその法律状態の存否に対して争い、原告の私法上の地位に危険が生じ、且つ、その危険が確認判決により除去することができ、言い換えれば、原告が主観的にその法律上の地位が不安定な状態に陥ると認め、且つその不安定状態が判決により排除できるものをいう。一方、裁判所の判決によってもその不安定な状態が排除されないものは、「確認判決の即時確定による法律上の利益」があると認め難い。本件被疑侵害者の取引相手は権利者が警告書を発したことにより、被疑侵害物品の販売停止又は被疑者との取引停止をしたが、権利者は被疑者に対し権利が侵害されていると主張しているにもかかわらず、訴訟を提起しなかったことから、被疑侵害物品が特許権を侵害しているか否かが不明確で、被疑者の法律上の地位が侵害される危険があり、その危険は確認判決によって排除できるので、前記規定を照らし合わせると、被疑者がこの確認訴訟を提起したのは、被疑侵害物品が権利の侵害をしているかとの不明確な状態を排除するためであるので、当該規定には合致しているといえる。

以上のことから、前記判決はある程度知的財産案件審理細則第29条の規定の意味を失くしてしまうとも言えるが、なぜなら、確認訴訟により、被疑侵害物品が権利の侵害をしているかとの不明確な状態を排除する場合に、特許の有効性を審理するのであれば、結果として、確認訴訟を通してその権利の有効性を確認することとは、さほどの違いはない。しかしながら、少なくとも、被疑侵害者にとって、権利者の特許権侵害訴訟を回避した前記特許権の主張に臨んだ場合に、選択できる対抗手段の一つとなることは間違いない。

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