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出版品(法律/訴訟)
専利権侵害と不当利得の競合についての実務見解 (2021/03/30)

法務担当 王麗真

専利権者は、その専利権が侵害された時に、法により侵害排除請求権、損害賠償請求権、不当利得返還請求権等を主張することで権利を守ることができ、民法第179条の規定によると、このうちの不当利得とは、「法律上の原因なしに利益を受けることにより、他人に損害を与えた場合は、その利益を返還しなければならない」ことを指し、また、「当事者の一方が、法律上の根拠なしに利益を受けることにより、他方に損害を与えた」ことを成立要件とし、「法律上の根拠がない」ことについて立証責任を負わなければならない(最高裁78年度台上字第1599号判決を参照)。一方、権利侵害行為については、民法第184条第1項前段の規定によると、権利侵害行為は、行為者が故意又は過失により不法に他人の権利を侵害するものでなければ、即ち、行為者に帰責性、違法性があり、不法行為と損害との間に因果関係があるものでなければ、成立しない。言い換えれば、権利侵害行為の法律関係に基づいて請求するには、民法に規定された権利侵害行為の要件を備えなければならず、主観的な面から言うと、行為者が故意又は過失をもつものでなければならず、客観的な面から言うと、行為者が侵害行為をすること、他人の権利を侵害すること、損害が発生したこと、行為と損害との間に因果関係があること、当該行為が不法行為であること等を要件としなければならない。

また、民法第197条第2項に、「損害賠償の義務者は、権利侵害行為による利益を受けることにより、被害者に損害を与えた場合、前項の時効が終了した後においても、不当利得に関する規定により、その受けた利益を被害者に返還しなければならない」ことが明記され、当該規定の目的は、「賠償義務者が権利侵害行為により利益を受けた場合は、損害賠償請求権と不当利得返還請求権との競合が発生し得る」ことが示されており、当該条文の立法趣旨において、「損害賠償の義務者が権利侵害行為による利益を受けることにより、被害者に被害を与えた場合は、権利侵害行為による請求権に加え、更に不当利得の請求権を発生させ、且つ当該請求権は、権利侵害行為による請求権の時効にかかわらず、依然として独立して存続する」ことが明記されていることからも明らかなように、不当利得返還請求権と侵害行為による損害賠償請求権は、独立して共存し、互いに競合する状態にある(最高裁101年度台上字第1411号判决の趣旨を参照)。なお、民法第197条第2項の不当利得返還請求権は、同法第125条の規定によると、15年間行使しなければ消滅し(最高裁29年上字第1615号判例を参照されたい)、同様に、民法第179条の不当利得返還請求権の時効も15年である。更に、民法第128条前段には、「消滅時効は、請求権を行使可能な時から起算する」ことが明記されている。

最高裁106年度台上字第2467号判決においては、不当利得とは、公平原則に反する財産の変動に対し、受益者が受けた利益を剥奪して、その財産状態の調整を目的とするものであるが、その判断は、権益帰属説を基準とすべきであり、即ち、法律上の原因がなく権益帰属の対象でない者がその利益を取得した場合には、当該対象に対し不当利得が成立すべきであり、「受益者に帰責性及び違法性がある」ことを必要としない見解を示している。一方、専利権は、無体財産権に属するものであるが、支配関係において民法の物権に類似しており、一旦専利権の支配関係が破壊されると、専利権が損害を受けるにつれて、往々にして不正な財産損益の変動が生じるため、専利権侵害と不当利得の競合が発生することになり、また、専利権侵害の救済方式については、専利法第96条、第97条に、侵害者の故意または過失により侵害行為を行ったことを要件とすることが明確に規定されており、不当利得の成立要件とは異なる。また、専利権も財産権に属するものであり、専利法には、民法の不当利得の適用を排除する規定を有しないので、財産法の体系に基づいて言えば、専利権者は、民法の不当利得の法律関係に基づいてその権利を主張することができ、原審でこれについての論断は、理由がないわけではないが、不当利得制度は、損害を補填するものでなく、権益の帰属内容に基づいて取得すべきでない利益を返還するものであるので、不当利得の法則に基づいて返還を請求する範囲は、請求者が受けた損害の程度を基準とするものでなく、受益者が受けた利益を限度としなければならない(最高裁61年台上字第1695号判例を参照されたい)。一方、最高裁56年台上字第3064号判例においては、不当利得返還請求権と損害賠償請求権は、法律上の性質が同一ではないが、両者の訴訟上の根拠となる事実が同一である場合、原告は訴えを提起する時に権利侵害行為の法律関係に基づいく一方、訴訟の進行中に他方が時効の抗弁をした後、再度不当利得の請求権に基づいて主張してもよい見解を示している。

以上のことから、損害賠償義務者は、侵害行為による利益を受けることにより、被害者に損害を与えた場合、前項の時効が終了した後においても、不当利得に関する規定に基づき、その受けた利益を被害者に返還しなければならない。また、被害者がこの規定により義務者に損害賠償を請求することは、義務者が権利侵害行為による損害賠償を負う債務者であることに加え、不当利得の要件も備えると共に、その法的効果を適用する必要があり、即ち、「義務者が利益を受けた」、「被害者が損害を受けた」、「損益間に因果関係が存在する」、「法律上の原因がない」等の条件に該当しなければならず、且つ当事者間の財産損益の変動、即ち、一方が受けた財産上の利益と他方の財産上の損害とが法律上の原因がないことによるものでなければならない場合に初めて成立し、仮に、受益者が債権、物権、又は他の権利源に基づいて利益を取得した場合は、法律上の原因があって利益を受けたものに属するので、不当利得は成立しないことになる。

 

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