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出版品(法律/訴訟)
知的財産裁判所における「懲罰的損害賠償金額」の判断基準の変化

懲罰的損害賠償制度の目的は、損害を補填すると共に、更なる侵害行為を抑止するためであり、その特徴は、賠償額が実際の損害額よりも多いことである。これに対し、大陸法においての損害賠償制度の主な目的は、単に損害を補填するものであるので、賠償額が実際の損害額を上回ることはない。

専利(特許、実用新案、意匠を含む)法では1994年より既に懲罰的損害賠償制度が採用されている。しかしながら、2011年11月29日に専利法の改正案が通過した(2013年1月1日に改正施行した)際、その制度に係る規定は一度削除されており、当時、行政院経済部は、立法院(国会)に提出した専利法の改正案の資料案において、懲罰的損害賠償制度の条文の削除理由を説明した。尚、その削除理由は、我が国における民事損害賠償の体制においては「損害補填原則」を採用しており、英米法の損害賠償制度である「懲罰的損害賠償制度」と異なるためであった。従って、我が国の民事損害賠償の体制に合わせるために、当該規定は削除された。更に、その際、立法院はこの条文の削除に対して異議を唱えなかったことから、そのまま可決された。

しかしながら、2012年に立法委員(国会議員)が懲罰的損害賠償制度の条文を復帰させる改正案を提出し、また、2012年10月31日に発行された立法委員提案書によると、懲罰的損害賠償制度の条文を取り戻したい理由は、懲罰的損害賠償制度を削除することは、専利権の利用を制限させるとともに、第三者が専利権侵害に対する投機心をあおる可能性があるからである。また、懲罰的損害賠償制度の条文を回復させることにより、知的財産権に係る、損害賠償の計算が困難であることより生じた、専利権者の証拠提出が困難であるとの問題を補うことができる。従って、改正案が可決された結果、2013年6月11日に改正施行された専利法においては再度懲罰的損害賠償制度が採用されることとなり、懲罰的損害賠償制度の条文が「復活」する形となった。

前述のように、現行台湾専利法においては、専利権侵害に対して懲罰的損害賠償制度を採用している。台湾専利法第97条第2項によると、専利権者が、専利権を故意に侵害した者に対して損害賠償を請求する(同法第96条第2項)場合、裁判所は被害者の請求に基づいて、侵害状況により損害額以上の賠償額を定めることができる。但し、損害額の3倍を超えてはならない。

以下、改正理由のポイントを説明する。

1.我が国の立法例:

伝統的な損害賠償制度の目的は損害を補填するものであるが、社会の発展に伴って損害賠償の範囲が徐々に拡大し、単に損害を補填するだけではなくなった。特に知的財産権の分野、例えば、著作権法、営業秘密法、及び公平取引法には、懲罰的損害賠償の規定があり、また、知的財産権の分野における法律のほかに、健康食品管理法、証券取引法などにも懲罰的損害賠償に係る規定を有する。更に、損害補填は、我が国の損害賠償制度の基本的な原則であるが、経済性法令から見ると、懲罰的損害賠償制度を採用している法律は数多くある。

2.外国の立法例:

外国の立法例を見てみると、例えば、アメリカには元々懲罰的損害賠償制度を有し、欧州連合(EU)では、2004年に「知的財産権執行指令」が可決され、侵害者が獲得した不正利益も損害賠償の範囲に属することとなった。更に、ドイツにおいて2009年に改正施行された特許法においても懲罰的損害賠償の条文を有する。

3.司法実務の実践:

我が国におけるいくつかの法律には既に、懲罰的損害賠償の規定を有することから、我が国でも上記の外国の流れを取り入れていることが分かる。また、他の法律分野の案件はまだ十分ではないが、知的財産権の分野においては、実務経験を徐々に積んでいっている。過去において、知的財産権に関するいくつかの判決には懲罰的損害賠償の規定の適用に配慮不足がみられるが、その他の案件においては、裁判所が、一つ一つの案件により、故意の認定及び侵害情状の判断に対して、基準を立てているようである。また、裁判所が懲罰的損害賠償の制度を濫用して被告に対して過酷な賠償金額を課す案件は今のところない。尚、専利権侵害訴訟において、専利権者による証拠の提出が困難であるために、合理的な賠償を得ることができない問題を、懲罰的損害賠償の制度で補うことができるので、この制度が実施されて以来、批判を受けていない。

2008年から2010年までの知的財産裁判所の判決から見ると、裁判所が懲罰的損害賠償の金額を定める際、主に以下の点を斟酌していることが分かった。

1.侵害期間の長さ及び侵害の態様(例えば、製造、販売、販売の勧誘など)(2008年度民専訴字第66号、2009年度民専訴字第21号、2009年度民専上字第21号、2009年度民専更(一)字第2号、2010年度民専訴字第12号判決)

2.係争製品の販売数量、推定金額、又は輸入数量など(2008年度民専訴字第66号、2009年度民専訴字第21号、2009年度民専更(一)字第2号、2010年度民専訴字第12号判決)

更に、最高裁判所2009年度台上字第1824号の判決によると、裁判所が懲罰的損害賠償の金額を定める際には、「当事者双方の資力、権利の侵害程度及びその他の全ての状況」を斟酌しなければならないようである。

上記最高裁判所の見解が出されてから、知的財産裁判所は多数の判決においてこの見解を引用して懲罰的損害賠償の金額を定めている。以下、裁判所にて斟酌された理由を例示する。

1.原告及び被告(一部の判決においては被告の部分しか考慮されていない)の資本総額(2009年度民専上易字第25号2009年度民専更(一)字第2号、2010年度民専訴字第66号、2010年度民専訴字第139号、2011年度民専訴字第53号判決)或いは払込資本金(2010年度民専訴字第12号、2011年度民専訴字第53号判決)

2.被告は侵害したことがあるか:
例えば、被告が係争専利を侵害したことから、原告が民事訴訟を提起したことがあるにかかわらず、被告が再度侵害行為を行った。(2009年度民専上易字第25号、2010年度民専訴字第66号判決)

3.内容証明郵便(legal attest letter)を送ったことがあるか:
例えば、原告が被告に内容証明郵便を送って係争専利の侵害を告知したにもかかわらず、被告は係争製品を製造、販売し続けた。(2010年度民専訴字第139号判決)

4.改良の有無:
係争製品には係争専利の技術特徴を含むが、改良された結果、係争専利製品と完全に同一とは言えなくなった。(2010年度民専訴字第139号判決)

5.実施権の契約関係が存在していたか:
例えば、被告と原告との間には実施権の契約関係が存在していたので、被告は係争専利の存在を知っていたはずであるなど。(2011年度民専訴字第60号判決)

以上のように、近年の判決により、知的財産裁判所が、懲罰的損害賠償の規定を適用する場合に、以前の判決と比べて、金額を定めた理由がより詳しく説明されていることが分かる。また、仮にその理由の説明が不十分であると判断された場合には、原判決が破棄される可能性もあり、例えば、最高裁判所2009年度台上字第1824号判決においては、前記の理由で、最高裁判所が原判決を破棄し、知的裁判所に差し戻している。

上述の判決から、最高裁判所2009年度台上字第1824号の判決が出されてから、近年、多くの案件において、知的財産裁判所が懲罰的損害賠償の金額を定める際には、侵害期間の長さ、侵害の態様、係争製品の販売数量だけではなく、当事者双方の資力、権利の侵害程度及びその他の全ての状況が裁判所に斟酌されていることが分かる。

 

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