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出版品(特実意)
台湾、中国、日本における情報提供制度に関する規定及びそれらの差異について (2023/01/13)

特許日本部 李文超

公衆の参加による特許審査の品質を高めるために、早期開示制度を採用している各国の特許庁では、Third Party Observation(TPO)制度が採用されている。そして、近年の各国における情報提供に関する規定の改正を踏まえ、以下、台湾、中国及び日本における情報提供に関する規定、及び情報提供に関する提出書類の規範をまとめて紹介すると共に、該三者の規定を比較する。

壱、台湾

一、法的根拠

2020年6月24日に改正された専利法施行細則第39条:

発明専利出願案件について公開後から査定までにおいては、何人であれ、当該発明に専利を与えるべきではないと認めた場合は、専利主務官庁に意見を述べるとともに、理由及び証明関連書類を添付することができる。

二、台湾における情報提供制度の紹介

上記法令の詳細を説明するために、2020年9月1日から、「特許出願の情報提供に関する作業要点」(以下、「作業要点」と称す)が施行された。以下の[表1]にて、該作業要点に基づいて、台湾における情報提供制度を紹介する。

[表1]

台湾における情報提供制度

情報提供ができる時期

特許出願の出願日から査定までの期間。つまり、当該特許出願が知的財産局に係属している期間であれば、第三者意見書を提出できる。

情報提供ができる者

1、その出願の出願人を除く如何なる者も可

2、実名でなければならない(第三者意見書に個人情報を記載する必要があるが、個人情報は外部に公開されない。)

提出可能な資料

1、第三者意見書

2、引用文献のリスト

3、理由書

4、引用文献に関する他の資料

情報提供者へのフィードバック

フィードバックされないが、情報提供者は、台湾知的財産局のウェブサイトにおける「専利公開情報検索」システムにてその意見を採択されるかを確認できる。

情報提供の公開

引用文献のリストが公開され、他の内容は、閲覧請求により、個人情報を除く第三者意見書のすべての内容を確認することができる。

手数料などの料金

なし


三、台湾における情報提供に関する提出書類の規範

台湾知的財産局に情報を提供する時は、提供者の個人情報等を含む第三者意見書、引用文献のリスト、及び理由書を提出しなければならなく、その内、理由書においては、特許出願に関連する引用文献の内容を説明し、又は審査意見通知書の形式で特許出願が特許要件を満たしていない理由を説明しなければならない。

弐、中国

一、法的根拠

2010年1月9日に改正された専利法実施細則第48条:

発明特許出願の公開日から特許権付与の公告日まで、如何なる人でも専利法の規定に合致しない特許出願について国務院特許行政部門に意見を提出し、かつ理由を説明することが出来る。

二、中国における情報提供制度の紹介

以下の[表2]においては、上記実施細則第48条、及び2010年に公布された中国専利審査指南第二部分第8章第4.9節「公衆からの意見に対する処理」における規定に基づいて、中国における情報提供制度を紹介する。

[表2]

中国における情報提供制度

情報提供ができる時期

特許出願の公開日から特許権付与の公告日までの期間

情報提供ができる者

如何なる自然人や法人も、実名や匿名で情報提供可

提出可能な資料

情報提供の形式や書類資料に係る規定はない。

情報提供者へのフィードバック

情報提供の対処状況は、意見を申し立てた公衆に通知されない。

情報提供の公開

公開されない。提供した情報が採用されたかどうかは、情報提供後に発行された審査意見通知書を通じて確認するしかない。

手数料などの料金

なし


三、中国における情報提供に関する提出書類の規範

上記表2に示すように、情報提供の内容及び書類形式について規定はないが、その内容の採用の可能性をより高めて、審査官が理解しやすくするために、中国国家知識財産局が発行する審査意見通知書の形式に従い記載したほうがよい。具体的に述べると、審査官の審査は、専利審査指南の規定による制約を受けているので、情報提供者は、審査指南の規定に基づいて、審査意見通知書に近い形式で記載することを推奨する。

参、日本

一、法的根拠

令和元年に改正された特許法施行規則第13条の2(以下は概要である):

何人も、特許庁長官に対し、特許出願が次の1~4号のいずれかに該当する旨の情報を提供することができる。ただし、当該特許出願が特許庁に係属しなくなったときは、この限りでない。

1.新規事項の追加(特許法第十七条の二第三項)。

2.産業上の利用性、新規性及び進歩性の要件、拡大先願、先願主義の何れかを満たしていない(特許法第二十九条、第二十九条の二又は第三十九条第一項から第四項まで)。

3.実施可能要件、サポート要件、明確性要件、簡潔性要件を満たしていない(特許法第三十六条第四項又は第六項(第四号を除く))。

4.その特許出願が外国語書面出願である場合において、当該特許出願の願書に記載した事項が外国語書面に記載した事項の範囲内にない。

特許法施行規則第13条の3(以下は概要である):

5.不適法な訂正(特許法第百二十六条第一項ただし書若しくは第五項から第七項まで、同法第百二十条の五第二項ただし書又は第百三十四条の二第一項ただし書)。

二、日本における情報提供制度の紹介

日本特許庁が2017年に発表した統計結果によると、情報提供件数は、年間7千件前後で推移しており、情報提供を受けた案件の73%において、情報提供された文献等を拒絶理由通知中で引用文献等として利用している。下記[表3]において、日本における情報提供制度を紹介する。

[表3]

日本における情報提供制度

情報提供ができる時期

特許出願・実用新案出願がなされた後は、特許付与後・実用新案登録後であるかにかかわらず、いつでも情報を提供することができる。

情報提供ができる者

何人も情報提供をすることができ、匿名とすることもできる。

提出可能な資料

特許法施行規則の様式第20(刊行物等提出書)に従って、刊行物(引用文献)及び提出理由を提出する。

情報提供者へのフィードバック

フィードバックを希望する場合は、刊行物等提出書の【提出の理由】の欄に、フィードバックを希望する旨を付記できる。匿名を希望した場合は、情報の利用状況のフィードバックを受けることができない。

情報提供の公開

特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で情報提供があった旨を確認でき、また、提供された情報は、閲覧請求をすることにより、その内容を知ることができる。ただし、情報提供者の個人情報等の重要情報は公開されない。

手数料などの料金

なし


三、日本における情報提供に関する提出書類の規範

上記【刊行物等提出書】において提供者は、対象である特許出願や特許登録番号及び刊行物の情報を記載しなければならなく、また、情報提供者の個人情報を選択的に記載でき、一方、日本特許庁のウェブサイトでは、提出内容のフォーマットについて規定されていないが、該情報提供の内容が審査官に採用される可能性を高めるために、日本特許庁が発行する審査意見通知書の形式を参考し、特許出願や特許登録の請求項の技術特徴を、提出する刊行物と比較して、特許出願や特許登録の、刊行物に対する特許要件を満たしていない理由を説明することを推奨する。

肆、台湾、中国、日本における情報提供に関する規定の比較

一、三者の比較

下記[表4]において、台湾、中国、日本における情報提供に関する規定の比較を行う。

[表4]

 

台湾

中国

日本

情報提供の対象

特許

特許

特許や実用新案

情報提供ができる時期

特許出願の出願日から査定までの期間。

特許出願の公開日から特許権付与の公告日までの期間。

特許出願・実用新案出願がなされた後は、特許付与後・実用新案登録後であるかにかかわらず、いつでも情報を提供することができる。

情報提供ができる者

その出願の出願人を除く如何なる人物も可、尚、実名でなければならない。

如何なる自然人や法人も可、尚、匿名も可。

如何なる自然人や法人、匿名も可。

提出可能な資料

情報提供の意見書、引用文献のリスト、理由書、引用文献に関する他の資料。

特に要求はない。

特許法施行規則の様式第20に従って作成された書類(刊行物等提出書)及び証拠。

情報提供者へのフィードバック

なし

なし

フィードバックを希望する場合は、その旨を付記できる。

情報提供の公開

引用文献のリストは公開される。尚、他の内容については、閲覧請求により確認することができる。

公開されない。

情報提供があった旨が公開される。また、閲覧請求をすることにより、その内容を知ることができる。

手数料などの料金

なし

なし

なし


二、結論

上記[表4]の比較結果によれば、台湾、中国、日本における情報提供の制度はわずかに異なるものの、該制度を設立する目的は類似しており、いずれも公衆参加による特許審査の品質を高めることを目的としていることが分かる。又、公衆や特許出願の競合相手の観点から見ると、情報提供は、無効審判よりも提出する時点が早く、準備の難易度及びコストが低いので、競合相手の特許ポートフォリオに対抗する有用な手段であるとも言える。

又、上述したように、提出された情報が採用される可能性及びその説得力を高めて、審査官が理解しやすくするために、現地の審査基準(審査指南)の規定に基づき、審査意見通知書の形式を参考にし、十分かつ詳細にその理由を記載したほうが良い。

なお、日本は、台湾及び中国と異なり、特許付与後・実用新案登録後でも情報を提供することができる。日本特許庁が公表した「権利付与後の情報提供」によると、特許庁は、特許付与後・実用新案登録後に提出された情報提供について審理を行わないが、公衆(特許権者も含む)は該内容を検索できることから、特許権者は、該情報提供の内容に基づいた無効審判の提起を避けるために、前もって訂正を行うかどうかを判断することができる。一方、無効審判を提起しようとする者も、該情報提供の内容を参考にして無効審判を提起できると共に、その理由及び証拠をさらに充実させることもできる。

※上記文章について何かご質問がござましたら、ぜひご遠慮なく、ipdept@taie.com.twまでお問い合わせ下さい。

  

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