ホーム » 知財情報 » 出版品(特実意)
出版品(特実意)
日本と台湾との意匠制度の相違比較:2020年11月1日に施行された台湾改訂意匠審査基準を中心に (2021/04)

弁理士 林軒吉

一、前書き

台湾の審査基準第三篇「意匠実体審査基準」の改訂版は、去る2020年11月1日に施行された。一方、日本特許庁も、令和元年の意匠法改正に則して、意匠審査基準の改訂を行い、令和2年(2020年)4月1日に施行された。台湾と日本との意匠制度の相違を把握するために、以下にて、台湾の意匠審査基準の改訂内容に係る五つのテーマと、日本との対応内容について紹介する。

二、五つのテーマ

(一)明細書及び図面の記載要件の緩和

【台湾】

台湾専利法施行細則第53条には、「意匠の図面は、主張する意匠の外観を十分に開示するに足りる図面を有していなければならい」と規定され、また、改訂前の意匠審査基準によれば、「意匠の外観を十分に開示するに足りる図面」とは、「意匠の全体(各面)を十分に開示しなければならない」との意味を指しているが、左右や上下が同一、対称である図面、又は普通の消費者が購入時又は使用時にその注意を引かない図面のみ、省略理由を記載した上で省略することができる。

ただし、実務上、「普通の消費者が購入時又は使用時にその注意を引かない図面」との認定基準について、出願人と審査官との認定が一致していないことがしばしばあり、出願人に大きな混乱をもたらしているので、今回の改訂は、上記認定基準を廃除し、「提出された図面が、『主張する部分(意匠登録を受けようとする部分に相当)』の全ての内容を十分に開示した場合、図面に開示されていない内容は、原則的に『意匠を主張しない部分(その他の部分に相当)』とみなし、【意匠の説明】の欄に省略理由を記載しなくてもいい」との内容が規定されることになった。

 

【後面図が省略されている柱時計】

【日本】

台湾の前記規定に対して、日本の意匠審査基準にも、「審査官は、願書に添付された図面等に、意匠登録を受けようとする物品等の一部のみが表されており、他の図と同一又は対称であることを理由に省略する旨の記載のない場合であっても、『意匠登録を受けようとする部分』の用途及び機能、意匠登録を受けようとする部分の形状等、物品全体に占める位置、大きさ、範囲並びに『意匠登録を受けようとする部分』と『その他の部分』の境界が明確な場合は、意匠が具体的であると判断する」との類似規定がある。

 

【後面図が省略されている額縁】

【一つの斜視図のみで表現するさいころ】

上記台湾と日本との規定を比較してみると、その文言表現は異なるものの、実質的に一致していると理解しても妥当であると考える。従って、日本の優先権を主張して台湾に意匠出願する場合、図面の省略がある出願であっても、その出願に係る図面を直接に台湾に提出でき、日本出願時に省略された図面を別途提供する必要はない。日本の出願人にとっては便利なところである。

なお、昨年の公聴会において、台湾も上記さいころのように、一枚の斜視図のみで意匠出願することは可能かとの質問が提出された。この質問に対し、台湾知的財産局の副長官は、「さいころ」のような外観の単純なものであれば、その属する技芸領域において通常知識を有するものが斜視図からその具体的な形状を把握できる場合、一つの斜視図で表現しても特に問題はないと答えた。

(二)建築物及び内装が意匠の保護対象であることを明確化

【台湾】

台湾意匠審査基準は2013年にも改訂され、その際、「意匠の物品は固定形態を有する動産であり消費者が独立して取引可能なものでなければならなく、建築物や内装などの不動産デザインであってはならない」との規定が削除され、即ち、2013年に改訂された後、建築物・内装などの不動産デザインは意匠の保護対象となり、実際に登録された建築物・内装に係る意匠事例も少ないが存在している。ただし、このようなものは意匠保護対象なのかどうか、よく質問されるので、そのことをより明らかにするために、改訂後の審査基準では、「意匠が応用できる物品は、建築物、橋梁若しくは内装などであってもよい」ことが明確に規定されるようになった。

【過去の登録事例】

【日本】

台湾の規定に対して、日本の、意匠法の対象とする物品とは、有体物のうち、市場で流通する動産をいい、土地及びその定着物であるいわゆる不動産は、物品とは認められないが、令和元年の意匠法改正では、上記の物品に加え、建築物、内装の意匠を保護対象化とした。台湾の規定に比べれば、日本では、意匠法で建築物、内装の意匠を意匠保護対象として明文化しただけでなく、審査基準においても建築物、内装の意匠についてそれぞれ、その定義、開示方法、新規性、創作非容易性の判断など、詳しく説明されているので、はるかに明確であると言える。

【意匠登録第1671773号「商業用建築物」】

【意匠登録第1671152号「書店の内装」】

(三)意匠の分割要件の緩和

【台湾】

改訂前の審査基準における、「出願時に1つの物品に応用する1つの外観のみが開示され、その他の参考図又は使用状態の図がない場合、それは実質的に二以上の意匠として明確に開示できていないことから、『意匠を主張しない部分』の開示内容を、別途分割することはできない」との内容を削除した。具体的に、一意匠一出願と認められる物品について、異なる範囲の主張内容を別途分割することが可能となった(下図を参照)。

                                    原出願                                                       分割出願

 

【カメラの部分】

【日本】

台湾と異なり、日本の意匠登録出願の分割制度は、意匠法第7条が規定する一意匠一出願の原則に反し、誤って二以上の意匠を一出願に包含させたまま意匠登録出願をした場合に、出願人の救済を図った趣旨であるので、例えば、意匠審査基準に記載の「一意匠と認められる全体意匠あるいは一意匠と取り扱われる物品等の部分について意匠登録を受けようとする意匠の意匠登録出願を一又は二以上の新たな物品等の部分について意匠登録を受けようとする意匠の意匠登録出願に分割した」との場合は、適法な意匠登録出願の分割の手続とは認められないと規定されている。簡単に言うと、「一意匠一出願と認められる物品について、異なる範囲の主張内容を別途分割する」について、台湾では可能であるのに対し、日本では認められない。

よって、改訂後の意匠分割要件について台湾は日本より緩くなった。

(四)画像の意匠の保護拡充

【台湾】

台湾の専利法では、画像意匠について、「物品に応用されるコンピューター画像(アイコン)及び図形化ユーザインタフェース(GUI)も、意匠法によって意匠登録出願をすることができる」との規定がある。また、台湾では、このようなアイコン、GUIは、「スクリーン」、「表示パネル」などの表示装置関連の物品に応用されるものであってもよく、これによって、意匠の物品は、「スマートフォン」、「洗濯機」などの下位概念の物品に限らず、「スクリーン」、「表示パネル」などの上位概念の物品とすることができるので、より広い権利範囲を取ることができる。しかし、このような限定でも、投影された画像やVRによる画像など、物品から離れた画像の権利が保護されなく、そして、多くの場合、画像意匠権の被疑侵害者は、例えばスマートフォン向けアプリ等コンピュータープログラム製品を提供する者であり、表示装置メーカーとは関係がないため、実務上、このような侵害者に対し権利行使をすることは困難であった。

それを解決するために、改訂後の審査基準では、画像意匠が応用される「物品」の対象をより一層拡充し、表示装置に表示されることを必要条件とせず、「物品」は「コンピュータプログラム製品」であってもよいと新たに定義した。こうすることによって、従来どおりの電子機器の種類を限定しないような「表示装置の画像」を意匠名称とすることができるほか、「コンピュータープログラム製品の画像」のような意匠名称とすることも可能になり、これにより的確かつ広い保護範囲を得ることができるようになった。また、投影画像やVRによる画像なども保護対象となり、「コンピュータプログラム製品」の業者などの侵害者に対する権利行使が難しいという問題の解決が期待される。

例を挙げると、下の図に示すように、コンピュータープログラム製品の画像として意匠出願した場合、その類似範囲は、コンピュータプログラムを有する全ての電子情報製品、例えば洗濯機の画像、携帯の画像などをカバーすることが可能となる。

【意匠の名称:コンピュータプログラム製品の画像】

【日本】

台湾では、審査基準の改訂により、「意匠の物品」の対象に対する解釈を拡充したのに対し、日本は、法改正により、意匠法第2条において意匠の定義に「画像」との保護対象を追加した。即ち、過去の「物品に記録された画像のみ」との制限が取り除かれ、物品から離れた画像自体が、保護対象となった。ただし、その画像の意匠は、(1)機器の操作用に供される画像(2)機器がその機能を発揮した結果として表示される画像の何れかに該当することが必要です。

 

台湾と日本の相違について、下記の表に示すように、物品との一体性の観点からみると、日本は、物品から離れた画像自体が保護対象とすることができるのに対し、台湾は、物品がプログラムであってもよいとの改訂がなされたと言っても、やはり完全に物品から離れることはできない点において相違している。

ここで一見、台湾の画像意匠の保護範囲は日本より狭いかと思われるかもしれないが、物品の機能との関係性との観点からみれば、先にも述べたように、日本では、物品の機能と関係のない画像は保護対象とすることができないのに対し、台湾では、物品の機能と関係のない画像でも保護対象とすることができ、例えばデスクトップの壁紙なども保護できるので、この観点にすると、日本より台湾の方の保護範囲が広いことが分かる。

【台湾と日本との画像意匠制度に係る対比表】

(五)その他

1、「色彩の開示規定」を補充する。

【台湾】

台湾では、色彩の保護を求めない意匠の図面は、線画、グレースケールのコンピューターグラフィックス、又は、モノクロ写真にて提出することが規定されていた。改訂後は、色彩の保護を求めない意匠出願の図面をグレースケールのコンピューターグラフィックス、又は、モノクロ写真にて提出する場合、そのグレーの色が主張しようとする部分と誤解されないために、「本願は、モノクロ写真(グレースケールCG)で表現するもので、各図の表面に表された濃淡は、本願の形状を表現するためのものであり、図に示すモノクロ(グレースケール)の色彩を主張するものではない」との説明を記載しても良いとなった。

【日本】

日本では、「意匠登録出願の願書及び図面等の記載の手引き」においても、「正面図、平面図、右側面図及び斜視図の表面全体に表された濃淡は、いずれも立体形状を特定するためのものである」との類似する記載がある。

2、「純機能的な物品の形状」(物品の機能を確保するために不可欠な形状)の説明を補充する。

【台湾】

この「純機能的な物品の形状」の定義は過去やや不明確なところがあると指摘されていたので、改訂後の意匠審査基準には、「物品の形状は完全に機能的なものであり、視覚的外観を創作する余地が全くないものは、純機能的な物品の形状に該当する」との記載が追加され、その定義を一層明確にした。

【日本】

日本では、「物品の機能を確保するために不可欠な形状」といい、例えば、「物品の機能を確保するため又は建築物の用途により必然的に定まる形状のみからなる意匠」、「物品の互換性確保等のため又は建築物の用途等に照らして標準化された規格により定まる形状(準必然的形状)からなる意匠」などに基づいて判断する。台湾の定義に対して、日本の意匠審査基準においては、「物品の機能を確保するために不可欠な形状」に関する幾つかの判断基準、事例が記載されているので、台湾の規定より明確であると言える。

【物品の機能を確保するために必然的に定まる形状のみからなる 「パラボラアンテナ」
の内面側部分のみについて意匠登録を受けようとする意匠】

【公的な標準化機関により全体の形状が規格化された「磁心」の意匠】

3、「意匠に色彩を含む場合の新規性、創作性判断原則」の修正

【台湾】

従来、出願意匠が先行意匠に対して、単一の色彩を選択或いは変更する差異点しか有しない場合、創作性がないと認定されていた。また、下図のように、出願意匠は先行意匠に対して黄色がつけられた相違点しかない場合、新規性はあるが、創作性はないと判断されていた。

 

しかし、このような変更は容易であるので、改訂後は、新規性がないと認定されることになった。一方、二種類以上の配色或いは色彩計画を付与した場合、新規性を有すると認定されるが、その全体が容易に想到できる創作であるかどうか、即ち創作性の有無を更に判断することとなる(下図)。