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出版品(特実意)
台湾における、創作性に関する認定について (2023/12/29)

編集部

一、前書き

先月、本件判決における、純機能的な物品の形状に関する裁判所の認定について紹介した。今月では、同一判決において、純機能的な物品の形状ではないと認定された本件意匠は、創作性の有無に係る裁判所の認定について紹介する。

二、事例の紹介

(一)当事者の主張 

原告の主張

被告の答弁

原告は、意匠第D195617号である「オイルパンのドレンプラグの取り外し工具の一部」(係争意匠、図1を参照)の意匠権者である。原告は、被告が係争意匠に類似する製品(係争商品)を販売していることに気づき、被告へ、「直ちに侵害行為を停止すべきである」との旨を通知したが、被告が前記通知の旨に従って処置していないので、原告は、本件訴訟を提起した。

それに対して、被告は、「係争商品の外観は係争意匠の図面と完全に同一ではないことから、係争意匠の意匠権の範囲に含まれないと共に、係争意匠は、『純機能的な物品の形状』である」と主張した。また、その「創作性の欠如」を証明できる複数の先行技芸が存在することから、係争意匠の意匠権が取り消されるべき複数の理由が存在する。

【図1】係争意匠の主要な図面

【図2】証拠1の主要な図面

【図3】証拠4の主要な図面

【図4】証拠5の主要な図面

【図5】証拠9の主要な図面

 (二)主要な争点

証拠1、証拠4、証拠5、証拠9の組み合わせは、係争意匠が創作性を有しないことを十分に証明できるか。

(三)裁判所の見解

結論:証拠1、証拠4、証拠5及び証拠9の組み合わせは、係争意匠が「創作性を有しない」ことを十分に証明できる。

A.確認した結果、係争意匠と証拠4のレンチツールの一端のジョイントはいずれも、「内方に矩形状の穴溝を有する六角形状の柱体」であり、…、それによると、係争意匠と証拠4との相違点は、係争意匠の上部に「駆動端の上部の辺縁に設けられている円弧形の凸部」との特徴を有することにあるが、該特徴は既に証拠9に開示されており、…、且つ係争意匠の全体の外観に特異な視覚効果をもたらした他の新規特徴を有しない。

B.係争意匠は、その属する技芸分野における通常の知識を有する者であれば、証拠4、9との先行技芸を参酌して容易に想到し得る創作であるので、証拠4、9の組み合わせによって、係争意匠が創作性を有しないことを証明でき、証拠1、証拠4、証拠5、証拠9の組み合わせによっても、係争意匠が創作性を有しないことを十分に証明できる。

C.また、原告は、「証拠1、証拠4、証拠5、証拠9と係争意匠との国際工業設計分類は異なり、且つ各先行技芸における他の設計部分は分割できないものであるので、それらを分割して係争意匠の特徴と相似する設計部分のみを使用して組み合わせることについて、疑義がある」と主張した。

D.しかしながら、創作性の審査原則に基づけば、専利出願に係る意匠と主要引例を対比して、容易に想到し得る意匠であるかを判断する時、両者の差異が、先行意匠及び出願時における通常の知識を参照してなされた簡単な手段の創作に過ぎず、当該意匠の全体外観に特異な視覚効果を生じさせることができない場合は、当該意匠が容易に想到することができ、創作性を具えないものであると認定すべきである。故に、意匠の創作性について審査をする場合、引用される先行技芸は同一の分野に限らなく、また、国際工業設計分類は主に、審査及び検索を行う場合の参考情報として用いるものであり、引用した先行の技芸分野を限定するために用いられるものではない。

E.ましてや、係争意匠の取り外しツールと、証拠1のボルト、証拠4のスリーブ、証拠5のレンチデバイス、証拠9のドライバービットはいずれも、部品の連結及び取り外しのハンドツールに係る分野に属すると共に、証拠4には、「内方に矩形状の穴溝を有する六角形状の柱体」が開示されていることから、この意匠の属する技芸分野における通常の知識を有する者であれば、証拠9における「駆動端の上部の辺縁に設けられている円弧形の凸部」との先行意匠の特徴を参酌して、該先行意匠を模倣、転用、置換、組み合わせ等の簡単な設計手段を用いることにより係争意匠を完成させることは困難ではないので、原告の主張は受け入れられない。

三、結論

創作性の審査原則によれば、専利出願に係る意匠及び主要引例を対比する場合、意匠が容易に想到し得るものであるか否かの判断をする時、両者の差異が、先行意匠及び出願時における通常の知識を参照してなされた簡単な手段の創作に過ぎず、当該意匠の全体外観に特異な視覚効果を生じさせることができない場合は、当該意匠は容易に想到することができ、創作性を具えないものであると認定すべきである。

裁判所は、係争意匠と証拠4とは、1つの相違点があるが、当該相違点は証拠9に開示されているとともに、係争意匠に他の新規特徴は有しないので、証拠4、9の組み合わせなどにより係争意匠に創造性を有しないことを証明できる、と認定した。

また、原告の「各証拠と係争意匠との国際工業設計分類は異なり、各証拠の一部を分割して組み合わせることができない」との主張について、裁判所は、「意匠の創作性について審査をする場合、引用される先行技芸は同一の分野に限らなく、また、国際工業設計分類は主に、審査及び検索を行う場合の参考情報として用いるものであり、引用した先行の技芸分野を限定するものではない」と説明した上で、「係争意匠と、各証拠とはいずれも、同一分野に属すると共に、係争意匠の外観は既に、各証拠に開示されているので、先行意匠を模倣、転用、置換、組み合わせ等の簡単な設計手段を用いることにより係争意匠を完成させることは困難ではない、と認定した。

以上のことから、裁判所は、本件の係争意匠が「純機能性意匠の物品造形」ではなく、視覚を通じて訴求される具体的創作に属すると認定したが、本件の係争意匠には創作性を有しないことから、取り消されるべきであるので、最終的に原告の主張は成立しないと判定した。

※詳細については、ipdept@taie.com.twまでお問い合わせ下さい。

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